月陰伝(一)
「おそいなぁ…」
そう言って、スーツに袖を通し、いつもとは違った雰囲気の夏樹がソワソワとしながら、女性達が着替えの為に入った部屋の扉をチラチラと確認して呟く。
「妃さ〜ん。
準備出来たかい?」
落ち着かないのは、夏樹だけでなく、ここにいる全員だ。
僕も、今まさにパーティードレスに着替えている女性達は、どんな姿で出てくるだろうかと、気になって仕方がない。
「楽しみですねぇ、兄さん?」
皆が期待しながら、頬を緩ませる中、なぜか不安顔の兄に首を傾げる。
「ごめんなさい。
お待たせ」
そう言って、パーティードレスに着替えたお母さんが出てきた。
その後ろから、恥ずかしそうに美輝ちゃんも姿を現した。
「っお母さんも美輝ちゃんも、よく似合ってますよっ。
ねぇ、お父さん…?」
「どうしよう、雪…。
こんなに綺麗な妻と娘なんてっ、他にいないよっ!?」
「…そうですねぇ…取りあえず、落ち着いてください…」
気持ちは、分からなくはない。
お母さんは、茶に近い色合いの濃いワインレッドのドレス。
露出が少ないが、とても上品だ。
それに対して美輝ちゃんは、淡いオレンジの可愛らしいドレス。
元気で明るい美輝ちゃんは、まさに、ひまわりの様だ。
「これはまた…華やかな親子だな」
久間さんと言う刑事さんも、目を丸くして見ている。
きっと、会場でも目を惹くだろう。
そんな風に二人に見とれていると、瀬能さんが、二人が出てきた部屋の中へ入って行った。
「結は?」
刹那兄さんが、思い出したように二人に聞いた。
「もうすぐ来ますよ?
このドレス、おねぇちゃんが着せてくれて、髪とかもやってくれたの。
だから、おねぇちゃんは着替えが最後になっちゃって…」
ちょうどその時、部屋から結ちゃんが出てきた。
「っうわぁ…」
瀬能さんに手を引かれて現れたのは、何処かの国の深窓の姫の様な、可憐でいて、芯の強そうな印象を受ける、美しい女性だった。
「…すごい…」
襟元のラインは白。
その下から薄い青に色付き、徐々に濃くなるグラデーションで裾が紫色になっている。
腰には、濃紺の太いリボンがアクセントとなって、可愛らしさも感じられる。
胸元には、赤い花弁を思わせる小さなネックレスが輝き、上品な大人っぽさが出ていた。
「っ…結姉…っ」
言葉を失ってしまうとは、こう言う事かと思う。
何も考えずに、ただ見ていたい。
ずっと見とれていたい。
「結、とても綺麗だ…。
やはり、薄い色も似合う」
「ありがと。
でも、さすがにピンクを着る勇気はなかったわ」
「いや、きっと似合うよ。
……っそのネックレス…」
「うん。
この前、くれたでしょ?
どう?」
「あぁ…とても綺麗だ…」
他の誰かがやったら、きっと目を背けてバカっプルと舌打ちするだろうが、結ちゃんと瀬能さんの二人が並んでいるのを見るのは、嫌な気がしない。
今でも、瀬能さんは結ちゃんを然り気無く抱き寄せ、こめかみの辺りに口付けていたりと、甘い雰囲気を振り撒いているが、まるで映画のワンシーンを見るように、皆が顔を赤くしながらも、目を離す事ができない。
「…絵になるなんてもんじゃねぇな…」
「…ステキ…っ」
真っ先に悪態をつきそうな久間さんも、言葉をなくしている。
美輝ちゃんに至っては、キラキラした目で、二人をうっとりと見ていた。
「?どうしたの?皆。
そろそろ行くよ?」
結ちゃんがそう言っておかしそうに微笑めば、目が眩んだ。
「…っ…はい…」
こんなんで会場では大丈夫だろうか…?
そう言って、スーツに袖を通し、いつもとは違った雰囲気の夏樹がソワソワとしながら、女性達が着替えの為に入った部屋の扉をチラチラと確認して呟く。
「妃さ〜ん。
準備出来たかい?」
落ち着かないのは、夏樹だけでなく、ここにいる全員だ。
僕も、今まさにパーティードレスに着替えている女性達は、どんな姿で出てくるだろうかと、気になって仕方がない。
「楽しみですねぇ、兄さん?」
皆が期待しながら、頬を緩ませる中、なぜか不安顔の兄に首を傾げる。
「ごめんなさい。
お待たせ」
そう言って、パーティードレスに着替えたお母さんが出てきた。
その後ろから、恥ずかしそうに美輝ちゃんも姿を現した。
「っお母さんも美輝ちゃんも、よく似合ってますよっ。
ねぇ、お父さん…?」
「どうしよう、雪…。
こんなに綺麗な妻と娘なんてっ、他にいないよっ!?」
「…そうですねぇ…取りあえず、落ち着いてください…」
気持ちは、分からなくはない。
お母さんは、茶に近い色合いの濃いワインレッドのドレス。
露出が少ないが、とても上品だ。
それに対して美輝ちゃんは、淡いオレンジの可愛らしいドレス。
元気で明るい美輝ちゃんは、まさに、ひまわりの様だ。
「これはまた…華やかな親子だな」
久間さんと言う刑事さんも、目を丸くして見ている。
きっと、会場でも目を惹くだろう。
そんな風に二人に見とれていると、瀬能さんが、二人が出てきた部屋の中へ入って行った。
「結は?」
刹那兄さんが、思い出したように二人に聞いた。
「もうすぐ来ますよ?
このドレス、おねぇちゃんが着せてくれて、髪とかもやってくれたの。
だから、おねぇちゃんは着替えが最後になっちゃって…」
ちょうどその時、部屋から結ちゃんが出てきた。
「っうわぁ…」
瀬能さんに手を引かれて現れたのは、何処かの国の深窓の姫の様な、可憐でいて、芯の強そうな印象を受ける、美しい女性だった。
「…すごい…」
襟元のラインは白。
その下から薄い青に色付き、徐々に濃くなるグラデーションで裾が紫色になっている。
腰には、濃紺の太いリボンがアクセントとなって、可愛らしさも感じられる。
胸元には、赤い花弁を思わせる小さなネックレスが輝き、上品な大人っぽさが出ていた。
「っ…結姉…っ」
言葉を失ってしまうとは、こう言う事かと思う。
何も考えずに、ただ見ていたい。
ずっと見とれていたい。
「結、とても綺麗だ…。
やはり、薄い色も似合う」
「ありがと。
でも、さすがにピンクを着る勇気はなかったわ」
「いや、きっと似合うよ。
……っそのネックレス…」
「うん。
この前、くれたでしょ?
どう?」
「あぁ…とても綺麗だ…」
他の誰かがやったら、きっと目を背けてバカっプルと舌打ちするだろうが、結ちゃんと瀬能さんの二人が並んでいるのを見るのは、嫌な気がしない。
今でも、瀬能さんは結ちゃんを然り気無く抱き寄せ、こめかみの辺りに口付けていたりと、甘い雰囲気を振り撒いているが、まるで映画のワンシーンを見るように、皆が顔を赤くしながらも、目を離す事ができない。
「…絵になるなんてもんじゃねぇな…」
「…ステキ…っ」
真っ先に悪態をつきそうな久間さんも、言葉をなくしている。
美輝ちゃんに至っては、キラキラした目で、二人をうっとりと見ていた。
「?どうしたの?皆。
そろそろ行くよ?」
結ちゃんがそう言っておかしそうに微笑めば、目が眩んだ。
「…っ…はい…」
こんなんで会場では大丈夫だろうか…?