月陰伝(一)
会場は、異様な雰囲気だった。
「っ…みんな、あのお茶を飲んじゃったって事……?」
美輝が、怯えて口元をおさえる。
「っあっ」
母が、知り合いを見付けたと、駆け寄っていくが、相手はもう焦点が合っていなかった。
明人が、母を引っ張って帰ってくる。
戻ってきた母は、ショックを受けたように明人にすがって、微かに震えていた。
「みんな、私から離れないでね。
何かあった時に守れないから」
「結姉……っ俺もしっかりするっ」
「ありがとう。
でも、無茶はだめだよ?」
「っおい。
俺らは船内を回ってくる。
ここは任せたぞ」
「わかった。
あっ待って、これを」
与一と、部下の三人に小さなブローチを渡す。
「?何だ?これは?」
「通信機みたいなもの。
それに触って、通信したい人の顔を思い浮かべながら、その人の名前を呼んで。
そうすると繋がるから」
「へぇ、わかった」
「私と、佐紀も持ってるから」
「おう、じゃぁな」
「うん。
気を付けて」
会場を後にする与一達を見送ると、すぐに佐紀も出ていった。
「結、無茶をするなよ」
「わかってる」
しばらくすると、会場の照明が少し落とされた。
一段高くなった舞台に、七人の男女が上がった。
『皆様、お待たせいたしました。
”神威”主催、船上パーティーへようこそ』
それだけの挨拶で、薬によって高揚している客達は、喝采を上げる。
『ありがとうございます。
今回は、様々な趣向でもって、皆様を歓待させていただきます。
今夜も”神の力をもって、悲しみのない世界を”、”神の力をもって、幸福な未来を”皆様にご提供いたします』
割れんばかりの盛大な拍手が鳴り響いた。
「っこえぇよ…」
「…こんな…っ私…っ」
「落ち着いて。
母さんは、あの女の術の影響下にあっただけ。
みんな、分かってるから」
「…結華……」
「ああ、妃さんは悪くない。
この異常さが分かるんだ。
正常だよ」
「ええ…っ」
よく会場を見回せば、薬の影響を受けなかった人達が、必死にパートナーを揺すっている。
けれど、正気ではない彼らは、そんな相手は存在しないかのように、舞台に熱い視線を注いでいる。
そうして会場内を一通り見回せば、違和感を感じた。
「船長や乗組員の姿がない…」
「本当ですね。
こう言う場合は、挨拶がありますよね?
お料理もありますが、シェフやウエイターの姿もありません…」
「そう言えば、さっきすれ違う奴ら、従業員ばっかだったよな?
おんなじ方に向かってた」
確かに、会場ではない方へ向かっていた。
そこで、通信用のブローチが光った。
「与一?」
『おう、今操舵室なんだが…居ねぇんだ、誰も…そっちに居るか?』
「……居ない。
少し待って」
意識を集中し、船内の気を探る。
「……操舵室の下辺り…。
そこに、かなりの人数が居るみたい。
確認してくれる?」
『わかった』
いったい何をしようとしているんだろう。
見極めようと、前を見れば、先ほどまで代わる代わる挨拶をしていた壇上の者達が、代表と思われる男性を残し、脇に下がっていく。
「っおねぇちゃんッ」
美輝が腕を引っ張り、指を指した。
そこには、数人の人々が並んでいた。
一様に虚ろな目をした人達の中に、晴海が居た。
「ッ晴海っ」
「待って」
駆け寄ろうとする刹那を制する。
そこで、佐紀からの通信が入った。
「佐紀?」
『結、まずいぞっ。
嵐が来るっ。
それと、エンジン部分に爆弾がっ……っ』
「っ佐紀っ?!」
そこで、船体が大きく揺れた。
「っ…みんな、あのお茶を飲んじゃったって事……?」
美輝が、怯えて口元をおさえる。
「っあっ」
母が、知り合いを見付けたと、駆け寄っていくが、相手はもう焦点が合っていなかった。
明人が、母を引っ張って帰ってくる。
戻ってきた母は、ショックを受けたように明人にすがって、微かに震えていた。
「みんな、私から離れないでね。
何かあった時に守れないから」
「結姉……っ俺もしっかりするっ」
「ありがとう。
でも、無茶はだめだよ?」
「っおい。
俺らは船内を回ってくる。
ここは任せたぞ」
「わかった。
あっ待って、これを」
与一と、部下の三人に小さなブローチを渡す。
「?何だ?これは?」
「通信機みたいなもの。
それに触って、通信したい人の顔を思い浮かべながら、その人の名前を呼んで。
そうすると繋がるから」
「へぇ、わかった」
「私と、佐紀も持ってるから」
「おう、じゃぁな」
「うん。
気を付けて」
会場を後にする与一達を見送ると、すぐに佐紀も出ていった。
「結、無茶をするなよ」
「わかってる」
しばらくすると、会場の照明が少し落とされた。
一段高くなった舞台に、七人の男女が上がった。
『皆様、お待たせいたしました。
”神威”主催、船上パーティーへようこそ』
それだけの挨拶で、薬によって高揚している客達は、喝采を上げる。
『ありがとうございます。
今回は、様々な趣向でもって、皆様を歓待させていただきます。
今夜も”神の力をもって、悲しみのない世界を”、”神の力をもって、幸福な未来を”皆様にご提供いたします』
割れんばかりの盛大な拍手が鳴り響いた。
「っこえぇよ…」
「…こんな…っ私…っ」
「落ち着いて。
母さんは、あの女の術の影響下にあっただけ。
みんな、分かってるから」
「…結華……」
「ああ、妃さんは悪くない。
この異常さが分かるんだ。
正常だよ」
「ええ…っ」
よく会場を見回せば、薬の影響を受けなかった人達が、必死にパートナーを揺すっている。
けれど、正気ではない彼らは、そんな相手は存在しないかのように、舞台に熱い視線を注いでいる。
そうして会場内を一通り見回せば、違和感を感じた。
「船長や乗組員の姿がない…」
「本当ですね。
こう言う場合は、挨拶がありますよね?
お料理もありますが、シェフやウエイターの姿もありません…」
「そう言えば、さっきすれ違う奴ら、従業員ばっかだったよな?
おんなじ方に向かってた」
確かに、会場ではない方へ向かっていた。
そこで、通信用のブローチが光った。
「与一?」
『おう、今操舵室なんだが…居ねぇんだ、誰も…そっちに居るか?』
「……居ない。
少し待って」
意識を集中し、船内の気を探る。
「……操舵室の下辺り…。
そこに、かなりの人数が居るみたい。
確認してくれる?」
『わかった』
いったい何をしようとしているんだろう。
見極めようと、前を見れば、先ほどまで代わる代わる挨拶をしていた壇上の者達が、代表と思われる男性を残し、脇に下がっていく。
「っおねぇちゃんッ」
美輝が腕を引っ張り、指を指した。
そこには、数人の人々が並んでいた。
一様に虚ろな目をした人達の中に、晴海が居た。
「ッ晴海っ」
「待って」
駆け寄ろうとする刹那を制する。
そこで、佐紀からの通信が入った。
「佐紀?」
『結、まずいぞっ。
嵐が来るっ。
それと、エンジン部分に爆弾がっ……っ』
「っ佐紀っ?!」
そこで、船体が大きく揺れた。