月陰伝(一)
「止めろっ。
あんた、正気じゃないぞっ」
その声に、他に正気を保っていた人達が前に出る。
「人殺しっ、何をやっているのか分かっているのか?!」
「そうよっ。
手品なんかじゃないんでしょ?!
伯母さんも変になっちゃったし、こんなの犯罪よっ」
「そうだぞっ。
だから、こんな怪しい会のパーティーなんて反対だったんだっ。
親父を正気に戻せっ」
おかしくなった身内を見ているからか、彼らは、これが手品やトリックではないと確信したようだ。
「消えちゃった人達……死んじゃったの…?」
美輝の問いかけに、母達もこちらをすがるように見つめてくる。
「…うん」
その答えに皆、青ざめる。
「消された?のかい…?
体も残さず…?」
「あの人達の体は、粒子レベルにまで分解され、魂と身体を動かす為のエネルギーの核である魄が、あの刀に吸収されてしまった。
死の定義は難しいですが、少なくとも、この次元では、死んだ事になります。
ただ問題なのは、冥界に送られるはずの魂さえも囚われてしまったと言う事です。
彼らは、完全な死さえ迎えられなくなってしまった…」
これは、正しく廻るはずの輪廻から、無理矢理外されてしまった事を意味する。
彼らは、存在した事を否定され、ただのエネルギーとして消費される。
「もう…助けられないんだ…」
そう、絶望したように呟く夏樹の頭を優しく撫でる。
「っ…晴兄を助けなきゃっ…」
泣きそうになる夏樹に、安心させるように笑いかける。
「分かってるよ」
「悪いが、先に俺が行く」
突然現れたのは、傷だらけのヨレヨレになった与一だった。
「何やって来たの…?」
「ちょっとした乱闘だ。
乗組員は全員解放した。
ただ、どうも船の制御ができないらしい」
「佐紀が爆弾を処理してるけど、操舵の方は守れなかったんだね。
佐紀の事だから、炎上して沈没って事はないと思うけど、どの道この嵐じゃどうなるか…」
「何とかならないのか?」
「……あっちもこっちもは無理」
この会場と、船をどうこうするは、別問題だ。
「ならここは、俺が何とか抑えておく。
先に船をどうにかして来い」
「…仕方ないか……黒狼」
《…また面倒な事になっておるな…どうすればよい?》
「与一のサポートを。
殺さない程度になら、何をしても良い」
「っおいっ」
《承知した》
「っいや、良くねぇよっ」
《しかし、手を抜けば死ぬぞ》
「っうっ……分かった…殺すなよっ」
《それは承知しておる》
納得してはいないが、そのまま前に駆け出した与一は、黒狼を伴って突っ込んでいく。
「ここは与一に任せる。
刹那、ついてきて。
この船を、何とか岸に誘導する」
「っわかった」
「皆は、なるべくあの刀に近付かないで。
それから……嫌かもしれないけど、動かないでね」
「え?!」
スッとまず、一番近くにいた夏樹を引き寄せ、素早く額に口付ける。
次に強引に雪仁と明人さんを屈ませて同じ様に済ませると、母と美輝にも口付けた。
そして、護りの印を結ぶ。
「これで、あの刀にもし触れたとしても、一度だけなら、結界で護られる。
気休めに近いから、あまりあてにはしないでね」
「「「「「…はい…」」」」」
ポカンとしているが、大丈夫だろうか…?
「すぐに戻る」
そして、会場を後にした。
あんた、正気じゃないぞっ」
その声に、他に正気を保っていた人達が前に出る。
「人殺しっ、何をやっているのか分かっているのか?!」
「そうよっ。
手品なんかじゃないんでしょ?!
伯母さんも変になっちゃったし、こんなの犯罪よっ」
「そうだぞっ。
だから、こんな怪しい会のパーティーなんて反対だったんだっ。
親父を正気に戻せっ」
おかしくなった身内を見ているからか、彼らは、これが手品やトリックではないと確信したようだ。
「消えちゃった人達……死んじゃったの…?」
美輝の問いかけに、母達もこちらをすがるように見つめてくる。
「…うん」
その答えに皆、青ざめる。
「消された?のかい…?
体も残さず…?」
「あの人達の体は、粒子レベルにまで分解され、魂と身体を動かす為のエネルギーの核である魄が、あの刀に吸収されてしまった。
死の定義は難しいですが、少なくとも、この次元では、死んだ事になります。
ただ問題なのは、冥界に送られるはずの魂さえも囚われてしまったと言う事です。
彼らは、完全な死さえ迎えられなくなってしまった…」
これは、正しく廻るはずの輪廻から、無理矢理外されてしまった事を意味する。
彼らは、存在した事を否定され、ただのエネルギーとして消費される。
「もう…助けられないんだ…」
そう、絶望したように呟く夏樹の頭を優しく撫でる。
「っ…晴兄を助けなきゃっ…」
泣きそうになる夏樹に、安心させるように笑いかける。
「分かってるよ」
「悪いが、先に俺が行く」
突然現れたのは、傷だらけのヨレヨレになった与一だった。
「何やって来たの…?」
「ちょっとした乱闘だ。
乗組員は全員解放した。
ただ、どうも船の制御ができないらしい」
「佐紀が爆弾を処理してるけど、操舵の方は守れなかったんだね。
佐紀の事だから、炎上して沈没って事はないと思うけど、どの道この嵐じゃどうなるか…」
「何とかならないのか?」
「……あっちもこっちもは無理」
この会場と、船をどうこうするは、別問題だ。
「ならここは、俺が何とか抑えておく。
先に船をどうにかして来い」
「…仕方ないか……黒狼」
《…また面倒な事になっておるな…どうすればよい?》
「与一のサポートを。
殺さない程度になら、何をしても良い」
「っおいっ」
《承知した》
「っいや、良くねぇよっ」
《しかし、手を抜けば死ぬぞ》
「っうっ……分かった…殺すなよっ」
《それは承知しておる》
納得してはいないが、そのまま前に駆け出した与一は、黒狼を伴って突っ込んでいく。
「ここは与一に任せる。
刹那、ついてきて。
この船を、何とか岸に誘導する」
「っわかった」
「皆は、なるべくあの刀に近付かないで。
それから……嫌かもしれないけど、動かないでね」
「え?!」
スッとまず、一番近くにいた夏樹を引き寄せ、素早く額に口付ける。
次に強引に雪仁と明人さんを屈ませて同じ様に済ませると、母と美輝にも口付けた。
そして、護りの印を結ぶ。
「これで、あの刀にもし触れたとしても、一度だけなら、結界で護られる。
気休めに近いから、あまりあてにはしないでね」
「「「「「…はい…」」」」」
ポカンとしているが、大丈夫だろうか…?
「すぐに戻る」
そして、会場を後にした。