月陰伝(一)
連れてきた若い三人の部下が見つからない。
そう気付いたのは、倉庫の中に閉じ込められていた乗組員達を救出し、事情を説明して、何が起こるかわからないからと、全員を操舵室に押し込み、一息ついた時だった。
連絡一つない事に不安を覚えた。
普段から、単独行動がモットー。
相方は、気が利く奴なので、あまり気にした事もなかった。
だから、間に合わせで連れてくる事になった部下の事を気に掛けるなんて気づかいは持ち合わせていなかったのだ。
「ちっ……おい、聞こえるか?」
結華に渡されたブローチに触れながら、連絡を取るが、一向に繋がる気配はない。
「壊れてんじゃねぇだろうな…」
先程は使えたのだから、あちらに何かあったと考える方が自然か…。
「仕方ねぇ、一度戻るか」
真っ直ぐ会場に戻ると、まさにその瞬間に、刀で斬られた人が、黒い霧となって消えるのが見えた。
「っ…マジか…」
やってくれる…。
こんなモノ、只の人の手に余る。
だが、だからと言って、丸投げはできない。
「っ…晴兄を助けなきゃっ…」
その声を聞いて、彼らの元へと向かった。
「分かってるよ」
こいつに言われると、安心するんだよな…。
そう思うが、絶対に口にはしない。
そして、決めた。
「悪いが、先に俺が行く」
そう言うと、結華が振り向いた。
「何やって来たの…?」
「ちょっとした乱闘だ。
乗組員は全員解放した。
ただ、どうも船の制御ができないらしい」
「佐紀が爆弾を処理してるけど、操舵の方は守れなかったんだね。
佐紀の事だから、炎上して沈没って事はないと思うけど、どの道この嵐じゃどうなるか…」
「何とかならないのか?」
こいつになら、何とかできるはずだ。
「……あっちもこっちもは無理」
それもそうかと思う。
いざと言うとき、結局頼ってしまう。
「ならここは、俺が何とか抑えておく。
先に船をどうにかして来い」
「…仕方ないか……黒狼」
その言葉で、黒い大きな犬が現れた。
いや…確か狼だったか…?
《…また面倒な事になっておるな…どうすればよい?》
「与一のサポートを。
殺さない程度になら、何をしても良い」
「っおいっ」
《承知した》
「っいや、良くねぇよっ」
《しかし、手を抜けば死ぬぞ》
「っうっ……分かった…殺すなよっ」
《それは承知しておる》
分かっている。
こいつらは、半殺しにする事はあっても、殺す事まではしない。
守る事を前提に動く。
この場合は、俺と会場の人々だ。
「っくそッどいてくれっ」
客達を押し退けかき分け、舞台を目指す。
しかし、そこへと到達する前に、事は起きてしまった。
「ッあぅっ……」
「きゃぁぁァッ」
先頭に立って、食って掛かっていた男が一人、黒い霧となってかき消えた。
一瞬後、銀色の煌めきが見えたと思ったら、空中にまた、黒い霧が見えた。
《埒があかぬ…我れが道を拓こう》
「お?」
振り返ろうとした時には、黒狼が高く頭上を飛び越えたところだった。
《ッグルラァァッ》
その一声だけで、どうやったのか、目の前が一直線に拓けた。
「っなに…?!」
「今度は何だ?!」
前に詰めよっていた者たちが振り返る。
刀を持った男も、動きを止めてこちらを凝視していた。
「何人殺りやがった!?
…っお前らも下がれっ」
まったくやりにくいっ。
こう言う正義の味方っぽい事は、苦手なんだよな…。
そう気付いたのは、倉庫の中に閉じ込められていた乗組員達を救出し、事情を説明して、何が起こるかわからないからと、全員を操舵室に押し込み、一息ついた時だった。
連絡一つない事に不安を覚えた。
普段から、単独行動がモットー。
相方は、気が利く奴なので、あまり気にした事もなかった。
だから、間に合わせで連れてくる事になった部下の事を気に掛けるなんて気づかいは持ち合わせていなかったのだ。
「ちっ……おい、聞こえるか?」
結華に渡されたブローチに触れながら、連絡を取るが、一向に繋がる気配はない。
「壊れてんじゃねぇだろうな…」
先程は使えたのだから、あちらに何かあったと考える方が自然か…。
「仕方ねぇ、一度戻るか」
真っ直ぐ会場に戻ると、まさにその瞬間に、刀で斬られた人が、黒い霧となって消えるのが見えた。
「っ…マジか…」
やってくれる…。
こんなモノ、只の人の手に余る。
だが、だからと言って、丸投げはできない。
「っ…晴兄を助けなきゃっ…」
その声を聞いて、彼らの元へと向かった。
「分かってるよ」
こいつに言われると、安心するんだよな…。
そう思うが、絶対に口にはしない。
そして、決めた。
「悪いが、先に俺が行く」
そう言うと、結華が振り向いた。
「何やって来たの…?」
「ちょっとした乱闘だ。
乗組員は全員解放した。
ただ、どうも船の制御ができないらしい」
「佐紀が爆弾を処理してるけど、操舵の方は守れなかったんだね。
佐紀の事だから、炎上して沈没って事はないと思うけど、どの道この嵐じゃどうなるか…」
「何とかならないのか?」
こいつになら、何とかできるはずだ。
「……あっちもこっちもは無理」
それもそうかと思う。
いざと言うとき、結局頼ってしまう。
「ならここは、俺が何とか抑えておく。
先に船をどうにかして来い」
「…仕方ないか……黒狼」
その言葉で、黒い大きな犬が現れた。
いや…確か狼だったか…?
《…また面倒な事になっておるな…どうすればよい?》
「与一のサポートを。
殺さない程度になら、何をしても良い」
「っおいっ」
《承知した》
「っいや、良くねぇよっ」
《しかし、手を抜けば死ぬぞ》
「っうっ……分かった…殺すなよっ」
《それは承知しておる》
分かっている。
こいつらは、半殺しにする事はあっても、殺す事まではしない。
守る事を前提に動く。
この場合は、俺と会場の人々だ。
「っくそッどいてくれっ」
客達を押し退けかき分け、舞台を目指す。
しかし、そこへと到達する前に、事は起きてしまった。
「ッあぅっ……」
「きゃぁぁァッ」
先頭に立って、食って掛かっていた男が一人、黒い霧となってかき消えた。
一瞬後、銀色の煌めきが見えたと思ったら、空中にまた、黒い霧が見えた。
《埒があかぬ…我れが道を拓こう》
「お?」
振り返ろうとした時には、黒狼が高く頭上を飛び越えたところだった。
《ッグルラァァッ》
その一声だけで、どうやったのか、目の前が一直線に拓けた。
「っなに…?!」
「今度は何だ?!」
前に詰めよっていた者たちが振り返る。
刀を持った男も、動きを止めてこちらを凝視していた。
「何人殺りやがった!?
…っお前らも下がれっ」
まったくやりにくいっ。
こう言う正義の味方っぽい事は、苦手なんだよな…。