月陰伝(一)
目を覚ました時、そこは自分の知るどんな場所でもなかった。
そればかりか、知らない人々が沢山いる。
華やかにドレスアップした人々は、皆一様に狂気を宿した目をしていた。
それは、最後に見た、彼女の眼と同じだと思った。
《目覚めたか?》
その声に振り向けば、目の前に大きな黒い犬が鎮座していた。
「っ……」
反射的に息をのむ。
今まで見たことがないほどの大きさと威圧感でもって、こちらをまっすぐに見る犬に、身動きができなかった。
《臆するでない。
あちらに身内も居る。
姫の術で、今は体調も問題はないはずだ。
そこに縛られておる者達の縄を解き、壁を伝うように一番後ろまで行かれよ。
どうやら、お主にかかずらっておる余裕は、もうないようだからな》
「っ…なっ…」
そこで気付いた。
っこ…この犬が喋ったのか…?!
《すぐに動け。
我はもう行くぞ》
そう言って、舞台の方へと駆けていった。
それを見送り、周りを見回す。
同じ様に座り、隣で眠らされている人が左右に数人ずつ。
いずれも年齢や性別に共通性はない。
「…どうなっている?…」
そこで、取り合えず立ち上がり、あの犬に言われた者達の所へと向かった。
舞台の方では、乱闘でもしているのか、人がかなり集まっている。
時折、叫び声が上がり、激しい罵声も聞こえてきた。
「っ…痛たたっ…あっありがとうございます」
「すみません。
助かります」
「面目ない…」
縄をほどくと、恐縮された。
「あの…ここはどこですか?」
場違いな質問かもしれないが、現状を把握する上でも、場所は聞いておかなくてはならない。
「あぁ、眠らされていた方ですね?
ここは、エンジェル号と言う客船の中です。
あなたは、”神威”と言う組織に人質にされていたんです。
ご家族は、あの人だかりの中だと思いますが…」
そこで、馴染みある声が聞こえてきた。
「晴兄〜ぃっ!」
「晴海兄さんっ」
「夏樹?雪仁?…」
それは、弟達だった。
「よかった。
久間っておっさんが、気を引いてくれたお陰だなっ」
「顔色も良いみたいですね?
結ちゃんが何かしてくれたんでしょうか?」
「そうじゃねぇ?
何か、守りがどうのって言ってたし」
何を言っているのか分からない。
勝手に話を進める弟達に、口を挟む隙さえ見つけられない。
「そうですね。
何はともあれ、無事で良かった。
?あれ?
刑事さん達じゃないですか。
ボロボロ……ですね」
さっきまで縄で縛られていた三人は、知り合いだったらしい。
すぐに近付いて、雪仁が状態を確認している。
「すみません…」
「申し訳ない…」
「お役に立てませんで…」
「いえ、お気になさらず。
ここはどうなるか分かりませんから、舞台から離れましょう。
夏樹、そっちの人達はどうですか?」
夏樹は、眠らされている人達を確認している。
「…あの薬かな…?
意識がないみたいだ。
一人ずつ運ばないと無理かも」
「なら、一度この刑事さん達を移動させてから、戻りましょう。
立てますか?」
「はぁ、片方は折れてるみたいで…っ…」
「私は…肋骨が…」
「私は何とか歩けます…」
「わかりました。
晴海兄さんも手伝ってください」
「っあっああ…」
全く何が何だか分からない。
弟達の誘導で、会場の後方まで来ると、父の姿が見えた。
「晴海、無事だったか」
「父さん。
いったいこれは、どうなっているんです?」
この世で最も頼りにしているのは、この父だ。
父ならば、何もかもを説明してくれるだろう。
「分かった。
よく聞きなさい」
そうして、この異常事態の真相を知ることとなった。
そればかりか、知らない人々が沢山いる。
華やかにドレスアップした人々は、皆一様に狂気を宿した目をしていた。
それは、最後に見た、彼女の眼と同じだと思った。
《目覚めたか?》
その声に振り向けば、目の前に大きな黒い犬が鎮座していた。
「っ……」
反射的に息をのむ。
今まで見たことがないほどの大きさと威圧感でもって、こちらをまっすぐに見る犬に、身動きができなかった。
《臆するでない。
あちらに身内も居る。
姫の術で、今は体調も問題はないはずだ。
そこに縛られておる者達の縄を解き、壁を伝うように一番後ろまで行かれよ。
どうやら、お主にかかずらっておる余裕は、もうないようだからな》
「っ…なっ…」
そこで気付いた。
っこ…この犬が喋ったのか…?!
《すぐに動け。
我はもう行くぞ》
そう言って、舞台の方へと駆けていった。
それを見送り、周りを見回す。
同じ様に座り、隣で眠らされている人が左右に数人ずつ。
いずれも年齢や性別に共通性はない。
「…どうなっている?…」
そこで、取り合えず立ち上がり、あの犬に言われた者達の所へと向かった。
舞台の方では、乱闘でもしているのか、人がかなり集まっている。
時折、叫び声が上がり、激しい罵声も聞こえてきた。
「っ…痛たたっ…あっありがとうございます」
「すみません。
助かります」
「面目ない…」
縄をほどくと、恐縮された。
「あの…ここはどこですか?」
場違いな質問かもしれないが、現状を把握する上でも、場所は聞いておかなくてはならない。
「あぁ、眠らされていた方ですね?
ここは、エンジェル号と言う客船の中です。
あなたは、”神威”と言う組織に人質にされていたんです。
ご家族は、あの人だかりの中だと思いますが…」
そこで、馴染みある声が聞こえてきた。
「晴兄〜ぃっ!」
「晴海兄さんっ」
「夏樹?雪仁?…」
それは、弟達だった。
「よかった。
久間っておっさんが、気を引いてくれたお陰だなっ」
「顔色も良いみたいですね?
結ちゃんが何かしてくれたんでしょうか?」
「そうじゃねぇ?
何か、守りがどうのって言ってたし」
何を言っているのか分からない。
勝手に話を進める弟達に、口を挟む隙さえ見つけられない。
「そうですね。
何はともあれ、無事で良かった。
?あれ?
刑事さん達じゃないですか。
ボロボロ……ですね」
さっきまで縄で縛られていた三人は、知り合いだったらしい。
すぐに近付いて、雪仁が状態を確認している。
「すみません…」
「申し訳ない…」
「お役に立てませんで…」
「いえ、お気になさらず。
ここはどうなるか分かりませんから、舞台から離れましょう。
夏樹、そっちの人達はどうですか?」
夏樹は、眠らされている人達を確認している。
「…あの薬かな…?
意識がないみたいだ。
一人ずつ運ばないと無理かも」
「なら、一度この刑事さん達を移動させてから、戻りましょう。
立てますか?」
「はぁ、片方は折れてるみたいで…っ…」
「私は…肋骨が…」
「私は何とか歩けます…」
「わかりました。
晴海兄さんも手伝ってください」
「っあっああ…」
全く何が何だか分からない。
弟達の誘導で、会場の後方まで来ると、父の姿が見えた。
「晴海、無事だったか」
「父さん。
いったいこれは、どうなっているんです?」
この世で最も頼りにしているのは、この父だ。
父ならば、何もかもを説明してくれるだろう。
「分かった。
よく聞きなさい」
そうして、この異常事態の真相を知ることとなった。