月陰伝(一)
第十二章〜終結と過去の邂逅〜
扉の前に陣取っていた二人の男を伸した後、扉に手をかけようとして、その手を止めた。
聞こえてくる喧騒。
中の気配。
それらは、今開ける事を躊躇われるものだった。
そして、見取り図を思い出す。
扉から離れ、会場に続く残り二つの扉へ向かう途中、ある部屋の前で立ち止まった。
気配を探っても、誰もいない。
ゆっくりと静かにその部屋の扉を開ける。
ここは、会場よりは一回り小さいが、何もないダンスホールだ。
「…暖房も効いてる…ここなら、全員入るか…」
眩しい程の電気も付け、安全も確認する。
そして、通信具に手を当て、佐紀を呼び出した。
『っ結っ怪我はないか?』
「…しないよ…」
何だろう…最近…婚約してから、前にも増して過保護になったような…?
『結?』
「…うん。
これから、大元を叩く。
乗客を全てダンスホールに避難させるから、佐紀も操舵室にいる乗務員を連れて来て。
一ヶ所にいてもらった方が、何かあった時にすぐに対処できる。
頼んだよ」
『いや、結一人では…っ』
「それと、雷光は戻す。
後は頼んだからね」
『っ……分かった…』
少々強引だが、これであちらは良し。
ホールを出て、扉を守るように立っていた男達を、全員縛り上げる。
それから、ホールに最も近い扉に細工を施す。
ホールまでの道も、脇道に入れないように 結界で一本の通路を創った。
全て万端準備を整え、最も人の目についていないだろう壁に手をついた。
「〔ティブス・ダルス〕」
展開された魔方陣に吸い込まれるように、壁をすり抜け、会場に降り立つ。
「扉の事は、恐らく外に行った結ちゃんが何とかしてくれます。
ですが、このパニック状態の人々を、このまま外に出すのは危険です」
聞き慣れた声に振り向くと、母達の姿があった。
「そうよ。
昔……こんな状況に出会った事がある…。
その時は、船も沈む寸前で、あちこち火の海だったわ…。
けど、その火や爆発によって亡くなった人はいなかった。
最も死者を出した原因は、パニックを起こして、船から飛び出した事…」
母のその言葉を聞きながら、笑みがこぼれた。
「この人達を鎮めなくては、どのみち助かりませんね…」
「そう言う事です」
「っ……結華ちゃん!?」
驚く彼らに、遅くなったと詫び、先程までしていた話を繋いだ。
「雪仁さんと母さんが考える通り、このパニックをどうにかしなくてはなりません。
集団心理とは、時に全滅さえ起こしかねないですから」
冷静になれないこの状況。
命の危機が迫っている時、人は更に判断力が鈍くなる。
ただ一つ、生きたいと言う意思のみでの行動は、他人を切り捨てる。
だからこそ、思わぬ行動に出る事があるのだ。
「でも、どうするの?
話を聞いてくれそうにもないよ…?」
「うん。
大丈夫、何とかする。
先ず、これを見てください」
聞こえてくる喧騒。
中の気配。
それらは、今開ける事を躊躇われるものだった。
そして、見取り図を思い出す。
扉から離れ、会場に続く残り二つの扉へ向かう途中、ある部屋の前で立ち止まった。
気配を探っても、誰もいない。
ゆっくりと静かにその部屋の扉を開ける。
ここは、会場よりは一回り小さいが、何もないダンスホールだ。
「…暖房も効いてる…ここなら、全員入るか…」
眩しい程の電気も付け、安全も確認する。
そして、通信具に手を当て、佐紀を呼び出した。
『っ結っ怪我はないか?』
「…しないよ…」
何だろう…最近…婚約してから、前にも増して過保護になったような…?
『結?』
「…うん。
これから、大元を叩く。
乗客を全てダンスホールに避難させるから、佐紀も操舵室にいる乗務員を連れて来て。
一ヶ所にいてもらった方が、何かあった時にすぐに対処できる。
頼んだよ」
『いや、結一人では…っ』
「それと、雷光は戻す。
後は頼んだからね」
『っ……分かった…』
少々強引だが、これであちらは良し。
ホールを出て、扉を守るように立っていた男達を、全員縛り上げる。
それから、ホールに最も近い扉に細工を施す。
ホールまでの道も、脇道に入れないように 結界で一本の通路を創った。
全て万端準備を整え、最も人の目についていないだろう壁に手をついた。
「〔ティブス・ダルス〕」
展開された魔方陣に吸い込まれるように、壁をすり抜け、会場に降り立つ。
「扉の事は、恐らく外に行った結ちゃんが何とかしてくれます。
ですが、このパニック状態の人々を、このまま外に出すのは危険です」
聞き慣れた声に振り向くと、母達の姿があった。
「そうよ。
昔……こんな状況に出会った事がある…。
その時は、船も沈む寸前で、あちこち火の海だったわ…。
けど、その火や爆発によって亡くなった人はいなかった。
最も死者を出した原因は、パニックを起こして、船から飛び出した事…」
母のその言葉を聞きながら、笑みがこぼれた。
「この人達を鎮めなくては、どのみち助かりませんね…」
「そう言う事です」
「っ……結華ちゃん!?」
驚く彼らに、遅くなったと詫び、先程までしていた話を繋いだ。
「雪仁さんと母さんが考える通り、このパニックをどうにかしなくてはなりません。
集団心理とは、時に全滅さえ起こしかねないですから」
冷静になれないこの状況。
命の危機が迫っている時、人は更に判断力が鈍くなる。
ただ一つ、生きたいと言う意思のみでの行動は、他人を切り捨てる。
だからこそ、思わぬ行動に出る事があるのだ。
「でも、どうするの?
話を聞いてくれそうにもないよ…?」
「うん。
大丈夫、何とかする。
先ず、これを見てください」