月陰伝(一)
壁に手をつき、炎の魔術を発動する。
意思に従い、幾本もの炎の細い線が壁を走った。
手を離した時、壁には、地図が描かれていた。
「…これは…この会場から…ホールまでの道順かい?」
明人さんが、顎に手を当て、呟いた。
「そうです。
よく分かりましたね?」
「船の見取り図を覗かせてもらったからね。
記憶力は良いんだ」
「それは、助かります。
協力してください。
乗客を全員、このホールへ避難させたいんです」
泣きわめいたり、扉を開けようと無意味に叩く者を目の端に捉える。
彼らは必死だ。
「私があの刀と、組織の者を何とかします。
乗客を誘導し、ホールへ行ってください。
佐紀も間もなく乗務員を連れて来ます。
警察の人間である与一も一緒に向かわせます。
あなた達も行きなさい」
そう、三人の刑事にも言っておく。
「皆を安心させてやってほしい。
夜明けまでには、船に助けが来ます。
そう言って、皆をホールから出さないようにお願いします」
この場に、人が居すぎるのは、私にとっても都合が悪い。
あんな物を相手にするには、力のセーブなどしてはいられないのだから。
「分かった。
けど、どうやってこの状態の乗客に説明するんだい?」
家族全員の視線を受け、不敵に笑う。
「悪を倒す正義の味方の声って言うのは、届くものです。
それに、こう言う時は、この派手なドレスも役に立つんですよ?」
そう言って、舞台の方を見据える。
「タイミングを見て、扉を開けます。
先頭に立って、上手く誘導してくださいね」
それだけ言って、駆け出した。
「っ結ちゃんっ」
「おねぇちゃんっ」
その声を振りきるように駆ける。
そして、腰に巻き付けた青いリボンの中から、忍ばせていた物を取り出す。
それを構え、今まさに与一に目掛けて降り下ろされた刀を、掬い上げる様に叩き返した。
ガキィンっ
その高い金属音は、会場中に響き渡った。
「っなっ…結華!?」
「遅くなった。
ここは任せて」
《では姫よ》
「うん。
風鸞と龍泉に集中する。
ありがと」
そこで黒狼が姿を消した。
体勢を崩し、後ろへと倒れていく男を一目見て、周囲に取り巻いていた組織の者達を、薙ぎ払うように、鉄扇を閃かせた。
「っうわっ」
「っくっ」
赤く煌めいた鉄扇。
”紅姫”の起こした風によって、何メートルか吹き飛んだ彼らに向けて言い放つ。
「投降しなさい。
この男の意識は、完全に刀にのまれた。
もう、お前達の言葉も通じない」
時間を稼ぐため、倒れた男の上に乱気流を発生させて、起き上がれなくする。
これによって、刀を手放してくれればとも思うが、そう上手くはいかないようだ。
「それと……あの刀は、今まで消滅させた人々の魂をエネルギーに変える。
彼らは、輪廻の輪から外され、二度と甦る事はない」
「っそんな……っそんなバカなっ」
「っだったら親父はっ?!」
普通の人になら、荒唐無稽な話だろうが、再生などと言う事を信じていた彼らには理解できるだろう。
「…結華…それは本当か…?」
「うん。
これは、大陸の方に現れた物と同質の物だ。
さっきから、術式を見てるけど、間違いはない」
上がってきた報告書も確認済みだ。
ウィナの見識に、間違いはない。
そこでようやく立ち上がった男は、刀を構えた。
こちらも臨戦態勢に入ろうと構えた時、不意に足下に違和感を感じた。
「っ…?」
それに気を取られ、一歩出遅れた。
「っ結姉っ」
刀が降り下ろされる直後、体ごと横に倒された。
「っ…!」
パリィンっ。
意思に従い、幾本もの炎の細い線が壁を走った。
手を離した時、壁には、地図が描かれていた。
「…これは…この会場から…ホールまでの道順かい?」
明人さんが、顎に手を当て、呟いた。
「そうです。
よく分かりましたね?」
「船の見取り図を覗かせてもらったからね。
記憶力は良いんだ」
「それは、助かります。
協力してください。
乗客を全員、このホールへ避難させたいんです」
泣きわめいたり、扉を開けようと無意味に叩く者を目の端に捉える。
彼らは必死だ。
「私があの刀と、組織の者を何とかします。
乗客を誘導し、ホールへ行ってください。
佐紀も間もなく乗務員を連れて来ます。
警察の人間である与一も一緒に向かわせます。
あなた達も行きなさい」
そう、三人の刑事にも言っておく。
「皆を安心させてやってほしい。
夜明けまでには、船に助けが来ます。
そう言って、皆をホールから出さないようにお願いします」
この場に、人が居すぎるのは、私にとっても都合が悪い。
あんな物を相手にするには、力のセーブなどしてはいられないのだから。
「分かった。
けど、どうやってこの状態の乗客に説明するんだい?」
家族全員の視線を受け、不敵に笑う。
「悪を倒す正義の味方の声って言うのは、届くものです。
それに、こう言う時は、この派手なドレスも役に立つんですよ?」
そう言って、舞台の方を見据える。
「タイミングを見て、扉を開けます。
先頭に立って、上手く誘導してくださいね」
それだけ言って、駆け出した。
「っ結ちゃんっ」
「おねぇちゃんっ」
その声を振りきるように駆ける。
そして、腰に巻き付けた青いリボンの中から、忍ばせていた物を取り出す。
それを構え、今まさに与一に目掛けて降り下ろされた刀を、掬い上げる様に叩き返した。
ガキィンっ
その高い金属音は、会場中に響き渡った。
「っなっ…結華!?」
「遅くなった。
ここは任せて」
《では姫よ》
「うん。
風鸞と龍泉に集中する。
ありがと」
そこで黒狼が姿を消した。
体勢を崩し、後ろへと倒れていく男を一目見て、周囲に取り巻いていた組織の者達を、薙ぎ払うように、鉄扇を閃かせた。
「っうわっ」
「っくっ」
赤く煌めいた鉄扇。
”紅姫”の起こした風によって、何メートルか吹き飛んだ彼らに向けて言い放つ。
「投降しなさい。
この男の意識は、完全に刀にのまれた。
もう、お前達の言葉も通じない」
時間を稼ぐため、倒れた男の上に乱気流を発生させて、起き上がれなくする。
これによって、刀を手放してくれればとも思うが、そう上手くはいかないようだ。
「それと……あの刀は、今まで消滅させた人々の魂をエネルギーに変える。
彼らは、輪廻の輪から外され、二度と甦る事はない」
「っそんな……っそんなバカなっ」
「っだったら親父はっ?!」
普通の人になら、荒唐無稽な話だろうが、再生などと言う事を信じていた彼らには理解できるだろう。
「…結華…それは本当か…?」
「うん。
これは、大陸の方に現れた物と同質の物だ。
さっきから、術式を見てるけど、間違いはない」
上がってきた報告書も確認済みだ。
ウィナの見識に、間違いはない。
そこでようやく立ち上がった男は、刀を構えた。
こちらも臨戦態勢に入ろうと構えた時、不意に足下に違和感を感じた。
「っ…?」
それに気を取られ、一歩出遅れた。
「っ結姉っ」
刀が降り下ろされる直後、体ごと横に倒された。
「っ…!」
パリィンっ。