月陰伝(一)
「っ夏樹っ?!」
気づけば、夏樹と一緒に床に転がっていた。
庇ってくれたようだ。
苦笑して体を起こす夏樹に咄嗟に怪我はなにか目を向ける。
「っははっ、結姉のお呪いが効いたみたいだっ。
かすっても大丈夫だった」
見れば、夏樹の肩の部分に少し切り傷ができていた。
それを確認した時、反射的に唱えていた。
「っ…〔ハルス・バインっ〕」
ドゴッ。
風と重力を合わせた魔術。
簡単に言えば、障害物に当たるまで吹っ飛ばす術だ。
それにより、刀を構えたままの男が壁にめり込んだ。
「……お前なぁ…」
「…結姉…すげぇ…」
「バカっ、もっと酷い怪我をしたらどうするのっ。
私のかけた術は、消える事を防げても、刀を防げるわけじゃないんだよっ!?」
「っ…ご…っごめんなさい…」
すぐに傷に治療術を施す。
完全に塞がったのを確認して、思わず夏樹を抱き締めた。
「っ…!?」
「…良かった…」
失わなくて良かった。
そして、そのまま真剣な声で与一に告げる。
「与一。
あの刀は、私がどうにかする。
中央の扉が、もうすぐ開くように術を仕掛けておいたから、そこからダンスホールに全員誘導して。
皆の視線が集まってる今がチャンスだよ」
夏樹を解放し、男を見据えて立ち上がる。
しかし、すぐに靴に違和感を感じ、遠慮なく脱ぎ捨てた。
ヒールが折れたようだ。
先程体勢を崩した要因は、これだったらしい。
「夏樹も、与一に協力して、取り合えず、あそこに転がってる奴らを引きずっていってちょうだい」
「う…うん、わかった」
夏樹が、茫然自失となっている組織の者達を引っ張っていった。
「気を付けろよ…」
与一が、すれ違いざま告げる。
それからすぐに駆け出した与一は、大きな声で皆に呼び掛けた。
「全員、中央の扉の前に集まれっ。
ダンスホールに避難する。
最も安全な場所だ。
以後、勝手な行動は慎んでくれ。
大丈夫だ。
助けも、じきに来るとの事だ。
俺が誘導する。
しっかりまとまってついてこい」
そこで、タイミングよく扉が開いた。
「よしっ、慌てずについてきてくれっ」
ざわめきが遠ざかる。
静寂が満ちた。
「神崎祥子。
どこかで見ているのでしょう?
この状況は、あなたの目論み通り?」
空間にそう語りかける。
すると、気配が濃くなった。
『ふふっ、勘が良いのね。
今の私にとって、たった一つの誤算は、貴女と言う存在なの。
精霊使い…。
邪魔な一族が、ようやく滅んだと思ったら、貴女みたいな生き残りがいるんだもの…」
「……やはり、全てあなたが仕組んだ事だったのか…」
神族の存在を知った時、幼い頃にマリューに連れられて行った神族の国の事を思い出した。
そこで言われたのだ。
精霊使いとは、神族にとって、とても大切な存在なのだと。
そして、神崎祥子を…烙印者と言う存在を知った時、もしかしたらと思った。
『貴女だけが、私と言う存在を脅かす。
味方にできれば、これ以上ない程、頼もしい相手。
だから、真紅一族を知った時、先ずその血以外で精霊を操る術がないかと一族の者にすりよった。
その力を知る者は、どうしてもそれを欲するもの。
手に入れられたらと夢想する。
近くにあればある程、その想いは強く、そして、醜く変貌する…』
その可能性に、気付かなかったわけではなかった。
一族は、彼女によって変容したのだ。
心の弱味につけこまれ、まんまとその罠にはまってしまった。
気づけば、夏樹と一緒に床に転がっていた。
庇ってくれたようだ。
苦笑して体を起こす夏樹に咄嗟に怪我はなにか目を向ける。
「っははっ、結姉のお呪いが効いたみたいだっ。
かすっても大丈夫だった」
見れば、夏樹の肩の部分に少し切り傷ができていた。
それを確認した時、反射的に唱えていた。
「っ…〔ハルス・バインっ〕」
ドゴッ。
風と重力を合わせた魔術。
簡単に言えば、障害物に当たるまで吹っ飛ばす術だ。
それにより、刀を構えたままの男が壁にめり込んだ。
「……お前なぁ…」
「…結姉…すげぇ…」
「バカっ、もっと酷い怪我をしたらどうするのっ。
私のかけた術は、消える事を防げても、刀を防げるわけじゃないんだよっ!?」
「っ…ご…っごめんなさい…」
すぐに傷に治療術を施す。
完全に塞がったのを確認して、思わず夏樹を抱き締めた。
「っ…!?」
「…良かった…」
失わなくて良かった。
そして、そのまま真剣な声で与一に告げる。
「与一。
あの刀は、私がどうにかする。
中央の扉が、もうすぐ開くように術を仕掛けておいたから、そこからダンスホールに全員誘導して。
皆の視線が集まってる今がチャンスだよ」
夏樹を解放し、男を見据えて立ち上がる。
しかし、すぐに靴に違和感を感じ、遠慮なく脱ぎ捨てた。
ヒールが折れたようだ。
先程体勢を崩した要因は、これだったらしい。
「夏樹も、与一に協力して、取り合えず、あそこに転がってる奴らを引きずっていってちょうだい」
「う…うん、わかった」
夏樹が、茫然自失となっている組織の者達を引っ張っていった。
「気を付けろよ…」
与一が、すれ違いざま告げる。
それからすぐに駆け出した与一は、大きな声で皆に呼び掛けた。
「全員、中央の扉の前に集まれっ。
ダンスホールに避難する。
最も安全な場所だ。
以後、勝手な行動は慎んでくれ。
大丈夫だ。
助けも、じきに来るとの事だ。
俺が誘導する。
しっかりまとまってついてこい」
そこで、タイミングよく扉が開いた。
「よしっ、慌てずについてきてくれっ」
ざわめきが遠ざかる。
静寂が満ちた。
「神崎祥子。
どこかで見ているのでしょう?
この状況は、あなたの目論み通り?」
空間にそう語りかける。
すると、気配が濃くなった。
『ふふっ、勘が良いのね。
今の私にとって、たった一つの誤算は、貴女と言う存在なの。
精霊使い…。
邪魔な一族が、ようやく滅んだと思ったら、貴女みたいな生き残りがいるんだもの…」
「……やはり、全てあなたが仕組んだ事だったのか…」
神族の存在を知った時、幼い頃にマリューに連れられて行った神族の国の事を思い出した。
そこで言われたのだ。
精霊使いとは、神族にとって、とても大切な存在なのだと。
そして、神崎祥子を…烙印者と言う存在を知った時、もしかしたらと思った。
『貴女だけが、私と言う存在を脅かす。
味方にできれば、これ以上ない程、頼もしい相手。
だから、真紅一族を知った時、先ずその血以外で精霊を操る術がないかと一族の者にすりよった。
その力を知る者は、どうしてもそれを欲するもの。
手に入れられたらと夢想する。
近くにあればある程、その想いは強く、そして、醜く変貌する…』
その可能性に、気付かなかったわけではなかった。
一族は、彼女によって変容したのだ。
心の弱味につけこまれ、まんまとその罠にはまってしまった。