月陰伝(一)
「……あなたは、血族以外での精霊使いの術が可能となっても、それが不和を呼び、真紅一族全てが滅んでも、どちらでも良かったんだ。
自分の都合よく扱えない精霊使いなど、あなたには邪魔でしかなかったのだからっ」
真紅一族は、神崎祥子にとって、邪魔なものでしかなかった。
もしも、その力が烙印者を滅ぼせるものだとわかれば、敵にしかならない。
だから、それはつまり…。
「…あなたが父を…一族を殺した…っ」
『仕方がなかったのよ。
当主とも話したのよ?
ただ手を出さず、傍観していてちょうだい?
って、でも聞き入れられなかったわ。
必ず一族の者が、私を滅ぼすとまで言ってくれたの』
グゥゥゥっ。
『あら、もうお話はここまでのようね。
それじゃぁ、ごきげんよう、さようなら』
「っ待ちなさいっ」
『ふふっ、運がよかったら、また会いましょうね……』
遠ざかって行く気配を、二度と忘れないように、次は必ずと決意を込める。
グゥゥゥっ。
その妖しい声のする方…男に……いや、刀に目を向ける。
先程とは変わって、刀に黒い霧が取り巻いている。
それがふとテーブルに触れた。
すると、一瞬後、そのテーブルは黒い塵となって消えてしまった。
まずい……っ。
あの竜巻と同じなのだろう。
人の手を介した物を消す。
下手をすれば、船ごと消える。
「っ……」
必死で手を考える。
あの刀を男から切り離さない限り、どうすることもできない。
そう神経を研ぎ澄ましていれば、微かな物音に気が付いた。
そちらに目を向けた時、声が響いた。
「カナちゃんっ」
それは、女の人の声だった。
見れば、小さな子どもがうずくまっているのが確認できた。
「あの子ねっ。
私が行くわっ」
それは、母の声だ。
驚いて唯一開いている扉の方を見る。
そこには、母が子ども目掛けて走ってくる姿があった。
っ今はまずいっ…!
「母さんっダメッ…」
そう言葉を発した時、驚くスピードで動くものがあった。
「っ……?!」
子どもを抱き抱えようと身を屈めた母に向かっていく男が見えた。
黒く煌めく刀身を見た時、それは反射的な行動だった。
「っ?!結華っ!?」
術を使わず、高速移動した事で、明日は酷い筋肉痛だろうなと呑気に考えている私の体には、深々と黒い刀が刺さっていた。
「っ…っとっさの行動がっ…これとはね…っ。
訓練サボってたツケか…っ」
「っおいッ結華っ」
大きな声出さないでよ…。
ここでただで起きないのが私でしょ?
「…っ…ふっ…うっ…〔我が血に眠りし契約の火よっ…〕」
引き抜こうとする男に負けないように、手に傷が付くのも構わず刀を押さえる。
「っ…くっっ〔…その穢れなき力をもって…っ封じの紋を刻みつけよッ〕」
刀が、赤い光を放ちながら、体から引き抜かれる。
その剣先が見えた時、体がゆっくりと後ろへと倒れた。
「っ…?」
しかし、予想した衝撃は来ず、柔らかく受け止められていた。
「っ何やってやがるッ」
耳元で響いた与一の声で、状況を察した。
「…まさか…与一に抱かれるなんて…」
「っイヤらしい言い方すんなッ。
ってかそんな軽口言ってる場合かッ」
「大丈夫だよ…っ」
刀は、赤い光の紋様をその刀身に刻み、床につき刺さっていた。
自分の都合よく扱えない精霊使いなど、あなたには邪魔でしかなかったのだからっ」
真紅一族は、神崎祥子にとって、邪魔なものでしかなかった。
もしも、その力が烙印者を滅ぼせるものだとわかれば、敵にしかならない。
だから、それはつまり…。
「…あなたが父を…一族を殺した…っ」
『仕方がなかったのよ。
当主とも話したのよ?
ただ手を出さず、傍観していてちょうだい?
って、でも聞き入れられなかったわ。
必ず一族の者が、私を滅ぼすとまで言ってくれたの』
グゥゥゥっ。
『あら、もうお話はここまでのようね。
それじゃぁ、ごきげんよう、さようなら』
「っ待ちなさいっ」
『ふふっ、運がよかったら、また会いましょうね……』
遠ざかって行く気配を、二度と忘れないように、次は必ずと決意を込める。
グゥゥゥっ。
その妖しい声のする方…男に……いや、刀に目を向ける。
先程とは変わって、刀に黒い霧が取り巻いている。
それがふとテーブルに触れた。
すると、一瞬後、そのテーブルは黒い塵となって消えてしまった。
まずい……っ。
あの竜巻と同じなのだろう。
人の手を介した物を消す。
下手をすれば、船ごと消える。
「っ……」
必死で手を考える。
あの刀を男から切り離さない限り、どうすることもできない。
そう神経を研ぎ澄ましていれば、微かな物音に気が付いた。
そちらに目を向けた時、声が響いた。
「カナちゃんっ」
それは、女の人の声だった。
見れば、小さな子どもがうずくまっているのが確認できた。
「あの子ねっ。
私が行くわっ」
それは、母の声だ。
驚いて唯一開いている扉の方を見る。
そこには、母が子ども目掛けて走ってくる姿があった。
っ今はまずいっ…!
「母さんっダメッ…」
そう言葉を発した時、驚くスピードで動くものがあった。
「っ……?!」
子どもを抱き抱えようと身を屈めた母に向かっていく男が見えた。
黒く煌めく刀身を見た時、それは反射的な行動だった。
「っ?!結華っ!?」
術を使わず、高速移動した事で、明日は酷い筋肉痛だろうなと呑気に考えている私の体には、深々と黒い刀が刺さっていた。
「っ…っとっさの行動がっ…これとはね…っ。
訓練サボってたツケか…っ」
「っおいッ結華っ」
大きな声出さないでよ…。
ここでただで起きないのが私でしょ?
「…っ…ふっ…うっ…〔我が血に眠りし契約の火よっ…〕」
引き抜こうとする男に負けないように、手に傷が付くのも構わず刀を押さえる。
「っ…くっっ〔…その穢れなき力をもって…っ封じの紋を刻みつけよッ〕」
刀が、赤い光を放ちながら、体から引き抜かれる。
その剣先が見えた時、体がゆっくりと後ろへと倒れた。
「っ…?」
しかし、予想した衝撃は来ず、柔らかく受け止められていた。
「っ何やってやがるッ」
耳元で響いた与一の声で、状況を察した。
「…まさか…与一に抱かれるなんて…」
「っイヤらしい言い方すんなッ。
ってかそんな軽口言ってる場合かッ」
「大丈夫だよ…っ」
刀は、赤い光の紋様をその刀身に刻み、床につき刺さっていた。