月陰伝(一)
あれ?と思った時には、素敵なおじ様と佐紀さんは、船の中へと消えていた。
そこではっと気付く。
「ッおねぇちゃんっ」
そうだおねぇちゃんっ。
そう叫んで、急いで体の向きを替え、走り出した。
その後に続いて、夏樹くん、雪仁さん、お父さん、それと、男を引きずりながら与一さんが追ってくる。
会場に着くと、おねぇちゃんの前で跪いて手をかざすおじ様がいた。
「…出血は止まったが、ここではこれ以上は無理だな。
結、屋敷に戻るぞ」
「っ……ですが、乗客が…」
「もうじき、船が岸に着く。
部隊は配置済みだ。
心配はいらん」
「そうですか…っ…」
おじ様が、軽々とおねぇちゃんを抱き上げた。
そして、優しい口調で言う。
「お前が考えそうな事だからな。
こうでもせんと、乗客が無事に船を下りるまで、お前は動かないだろう。
今は、自分の事を考えてくれ」
「はい…」
その様子だけで、おねぇちゃんがこのおじ様を信頼しているんだと分かった。
何だか、もう入る隙はないように感じて、肩を落とす。
お母さん達に目を向ければ、みんな複雑な表情をしていた。
「…っ…あの…」
お母さんが勇気を振り絞るように、おじ様に声をかけた。
目が合ったが、お母さんは、そのまま何も言えなくなってしまった。
そんなお母さんからついっと視線を外したおじ様は、与一さんと佐紀さんを見て言った。
「久間、サキュリア、ここは任せる。
……その男が結華を刺したのか?」
「っはっはいっ」
与一さんが、カチカチに緊張して答えた。
その後に続いて、おねぇちゃんが声を上げる。
「…マリュー様…これは私の不注意です…」
そう聞いたおじ様は、あからさまに眉をひそめて、仕方がないと言うように結論を出した。
「…本来ならば、煉獄にでも送ってやる所だが……お前がそう言うならば仕方あるまい…。
久間、その男の処分もそちらでしろ。
但し、あの刀はこちらで回収する」
「っはっ承知致しましたッ」
敬礼する与一さんに目を丸くしていれば、肩の上に重みを感じた。
見れば、私が呼び出したあの精霊だ。
それに気付いたおじ様が、こちらに顔を向けた。
「そなたが結華の妹か。
……その精霊は、律の白拓に似ているな」
そう言って精霊を見ながら目元を和らげる。
っびっ…びっくりした…。
ドキドキしちゃったよ?!
これって恋!?
その眼差しに、少々パニックを起こしていれば、おねぇちゃんが手を差し出した。
「…っ美輝、手を…その子は一度還す…」
そう言ったおねぇちゃんに、反射的に手を伸ばして血の気の失せた冷たい手にそっと重ねた。
すると、ザワザワとした感覚を感じ、すっと肩の重みが消えた。
「あ……」
精霊が消えたのだと理解した時、何だかおねぇちゃんとの繋がりも消えたような気がした。
「…おねぇちゃん…」
そう口にしたのは、悲しかったからだ。
近付いたと思ったおねぇちゃんとの距離が、また開いてしまったように感じた。
「…またね…美輝…っ…」
辛そうな様子に、引き留める事もできなかった。
そして、おじ様の下に魔法陣が現れ、一瞬後には、おねぇちゃんもおじ様も、姿を消していた。
そこではっと気付く。
「ッおねぇちゃんっ」
そうだおねぇちゃんっ。
そう叫んで、急いで体の向きを替え、走り出した。
その後に続いて、夏樹くん、雪仁さん、お父さん、それと、男を引きずりながら与一さんが追ってくる。
会場に着くと、おねぇちゃんの前で跪いて手をかざすおじ様がいた。
「…出血は止まったが、ここではこれ以上は無理だな。
結、屋敷に戻るぞ」
「っ……ですが、乗客が…」
「もうじき、船が岸に着く。
部隊は配置済みだ。
心配はいらん」
「そうですか…っ…」
おじ様が、軽々とおねぇちゃんを抱き上げた。
そして、優しい口調で言う。
「お前が考えそうな事だからな。
こうでもせんと、乗客が無事に船を下りるまで、お前は動かないだろう。
今は、自分の事を考えてくれ」
「はい…」
その様子だけで、おねぇちゃんがこのおじ様を信頼しているんだと分かった。
何だか、もう入る隙はないように感じて、肩を落とす。
お母さん達に目を向ければ、みんな複雑な表情をしていた。
「…っ…あの…」
お母さんが勇気を振り絞るように、おじ様に声をかけた。
目が合ったが、お母さんは、そのまま何も言えなくなってしまった。
そんなお母さんからついっと視線を外したおじ様は、与一さんと佐紀さんを見て言った。
「久間、サキュリア、ここは任せる。
……その男が結華を刺したのか?」
「っはっはいっ」
与一さんが、カチカチに緊張して答えた。
その後に続いて、おねぇちゃんが声を上げる。
「…マリュー様…これは私の不注意です…」
そう聞いたおじ様は、あからさまに眉をひそめて、仕方がないと言うように結論を出した。
「…本来ならば、煉獄にでも送ってやる所だが……お前がそう言うならば仕方あるまい…。
久間、その男の処分もそちらでしろ。
但し、あの刀はこちらで回収する」
「っはっ承知致しましたッ」
敬礼する与一さんに目を丸くしていれば、肩の上に重みを感じた。
見れば、私が呼び出したあの精霊だ。
それに気付いたおじ様が、こちらに顔を向けた。
「そなたが結華の妹か。
……その精霊は、律の白拓に似ているな」
そう言って精霊を見ながら目元を和らげる。
っびっ…びっくりした…。
ドキドキしちゃったよ?!
これって恋!?
その眼差しに、少々パニックを起こしていれば、おねぇちゃんが手を差し出した。
「…っ美輝、手を…その子は一度還す…」
そう言ったおねぇちゃんに、反射的に手を伸ばして血の気の失せた冷たい手にそっと重ねた。
すると、ザワザワとした感覚を感じ、すっと肩の重みが消えた。
「あ……」
精霊が消えたのだと理解した時、何だかおねぇちゃんとの繋がりも消えたような気がした。
「…おねぇちゃん…」
そう口にしたのは、悲しかったからだ。
近付いたと思ったおねぇちゃんとの距離が、また開いてしまったように感じた。
「…またね…美輝…っ…」
辛そうな様子に、引き留める事もできなかった。
そして、おじ様の下に魔法陣が現れ、一瞬後には、おねぇちゃんもおじ様も、姿を消していた。