月陰伝(一)
心地好い温かさを感じる。
胸の奥にほんのりと明かりが灯ったような温かさ…。
それが、幼い頃の懐かしい記憶を呼び覚ました。
『いまの…むねがあたたかくなるって、びょうきじゃないんですか?』
『結華ちゃんったら…そうねぇ…」
その人は、木陰で本を読んでくれる。
遊びに来た時には、必ずと言っていいほど、色んな話を聞かせてくれた。
「こうして抱き締めると、温かいでしょ?』
いつも頭を優しく撫でてくれる手は、温かくて、それだけで笑顔になれた。
『はい。
ふわっとします』
『うふふっ、そうよ。
だって、わたくしの想いが今、結華ちゃんに伝わってるんだもの』
笑顔が絶えない可愛い人。
白いパラソルと白いフリルのワンピース。
お人形さんのような人。
『おもい?
おもたくないですよ?』
『あら、ふふっ重さではないわ。
心よ』
『こころ?』
『そうよ、今、わたくしは、結華ちゃんっ大好きって思ってる。
好きって想いが一番、この世界で温かいの。
どう?
今、何か感じない?』
私にとっては母親の様な人。
マリュー様にそう言ったら、見たこともない笑みを浮かべてくれた。
『…?…はずかしい…?
くすぐったい…?
なんだかモゾモゾします…』
『そうね、それが、胸が温かくなるって事よ』
子どもの好奇心における疑問なんて、適当に誤魔化す大人も多いのに、根気強く、納得するまで、様々な事を教えてくれた。
『ねぇ、結華ちゃん。
もしも、温かい何かを感じたら、それはきっと、あなたに想いが向けられている証拠なのよ…』
その言葉を最後に、その人は光の中に消えた。
目を開けた時、どこに居るのか分からなかった。
出血による脳の稼働力が落ちていたと言う事もあったのだろう。
呆っとして、なかなか視界が定まらなかった。
「目が覚めたのか…?」
しかし、その声を認識するのは早かった。
「っお父様っ…?」
そこでようやく頭が目をさます。
慌てて体を起こした。
「そろそろ食事の準備ができる頃だ。
どうする。
まだ眠るか?」
傷は塞がっているが、体力も気力も削られていた。
少しでも食事はした方が良いだろう。
「起きます。
お腹も空きました…」
「ふっ、そうか」
そう言って、優しい笑みを浮かべながら頭を撫でられた。
「…さっきまでシェリー様の夢を見ていました…」
そう呟くとマリュヒャは、頭に乗せた手をそのままに苦笑した。
「そうか……今回は、シェリーも心配しただろうな…。
久しぶりに寿命が縮む心地だった…」
「…ごめんなさい…」
手間をかけた事が申し訳なくて、視線を落とす。
「…そうではない…」
そう言って、頭から手の重さが消えた。
少し寂しく思っていれば、突然、抱きすくめされた。
「っ…?!」
「そうではない…お前が居なくなったら、きっと私は正気ではいられない。
そう思う程、お前が大切なのだ…お前の事だ、手間を掛けたと思っているのだろうが、こんな事は何て事はない」
「…っお父様…」
温かい……。
『想いが向けられている証拠よ…』
はい…そうですね…。
「では行こう。
歩けるか?」
そう聞かれて、ゆっくりとベッドから足を下ろし、立ち上がった。
少し力が入らなくて心許ないが、それを悟られないように、笑顔を作って頷いた。
「大丈夫です」
「……お前は…」
「?…っ」
マリュヒャが、呆れたように呟いた次の瞬間、フワリと体が持ち上がり、抱き抱えられた。
…っっっ姫だっこ再び!?
「っまっ…マリュー様っ…っ」
「何だ?」
「いえ…っあの…あ…歩けますよ?」
「嘘だろう。
何よりお前が自分の事で大丈夫だと言う場合は、全くあてにならん。
大人しくしていろ。
それと、ここは屋敷だぞ?」
「…っはい…お父様…っ」
本当は、この人にこうされるのが嬉しいのだと、素直に言う事はできなかった。
胸の奥にほんのりと明かりが灯ったような温かさ…。
それが、幼い頃の懐かしい記憶を呼び覚ました。
『いまの…むねがあたたかくなるって、びょうきじゃないんですか?』
『結華ちゃんったら…そうねぇ…」
その人は、木陰で本を読んでくれる。
遊びに来た時には、必ずと言っていいほど、色んな話を聞かせてくれた。
「こうして抱き締めると、温かいでしょ?』
いつも頭を優しく撫でてくれる手は、温かくて、それだけで笑顔になれた。
『はい。
ふわっとします』
『うふふっ、そうよ。
だって、わたくしの想いが今、結華ちゃんに伝わってるんだもの』
笑顔が絶えない可愛い人。
白いパラソルと白いフリルのワンピース。
お人形さんのような人。
『おもい?
おもたくないですよ?』
『あら、ふふっ重さではないわ。
心よ』
『こころ?』
『そうよ、今、わたくしは、結華ちゃんっ大好きって思ってる。
好きって想いが一番、この世界で温かいの。
どう?
今、何か感じない?』
私にとっては母親の様な人。
マリュー様にそう言ったら、見たこともない笑みを浮かべてくれた。
『…?…はずかしい…?
くすぐったい…?
なんだかモゾモゾします…』
『そうね、それが、胸が温かくなるって事よ』
子どもの好奇心における疑問なんて、適当に誤魔化す大人も多いのに、根気強く、納得するまで、様々な事を教えてくれた。
『ねぇ、結華ちゃん。
もしも、温かい何かを感じたら、それはきっと、あなたに想いが向けられている証拠なのよ…』
その言葉を最後に、その人は光の中に消えた。
目を開けた時、どこに居るのか分からなかった。
出血による脳の稼働力が落ちていたと言う事もあったのだろう。
呆っとして、なかなか視界が定まらなかった。
「目が覚めたのか…?」
しかし、その声を認識するのは早かった。
「っお父様っ…?」
そこでようやく頭が目をさます。
慌てて体を起こした。
「そろそろ食事の準備ができる頃だ。
どうする。
まだ眠るか?」
傷は塞がっているが、体力も気力も削られていた。
少しでも食事はした方が良いだろう。
「起きます。
お腹も空きました…」
「ふっ、そうか」
そう言って、優しい笑みを浮かべながら頭を撫でられた。
「…さっきまでシェリー様の夢を見ていました…」
そう呟くとマリュヒャは、頭に乗せた手をそのままに苦笑した。
「そうか……今回は、シェリーも心配しただろうな…。
久しぶりに寿命が縮む心地だった…」
「…ごめんなさい…」
手間をかけた事が申し訳なくて、視線を落とす。
「…そうではない…」
そう言って、頭から手の重さが消えた。
少し寂しく思っていれば、突然、抱きすくめされた。
「っ…?!」
「そうではない…お前が居なくなったら、きっと私は正気ではいられない。
そう思う程、お前が大切なのだ…お前の事だ、手間を掛けたと思っているのだろうが、こんな事は何て事はない」
「…っお父様…」
温かい……。
『想いが向けられている証拠よ…』
はい…そうですね…。
「では行こう。
歩けるか?」
そう聞かれて、ゆっくりとベッドから足を下ろし、立ち上がった。
少し力が入らなくて心許ないが、それを悟られないように、笑顔を作って頷いた。
「大丈夫です」
「……お前は…」
「?…っ」
マリュヒャが、呆れたように呟いた次の瞬間、フワリと体が持ち上がり、抱き抱えられた。
…っっっ姫だっこ再び!?
「っまっ…マリュー様っ…っ」
「何だ?」
「いえ…っあの…あ…歩けますよ?」
「嘘だろう。
何よりお前が自分の事で大丈夫だと言う場合は、全くあてにならん。
大人しくしていろ。
それと、ここは屋敷だぞ?」
「…っはい…お父様…っ」
本当は、この人にこうされるのが嬉しいのだと、素直に言う事はできなかった。