月陰伝(一)
「結華は私が貰う」
開いた口が塞がらないなんて事を実際に経験するとは思わなかった。
「……間違えだ。
私が引き取る」
「あ〜、養女って事ね…。
嫁にくれと言われてるのかと思って焦ったよ…」
「妻はシェリーだけだ。
それと同じで、娘は結華だけが良い」
マリューは、嘘や冗談を言える奴ではないと、誰よりもよく知っている。
その決意も本物だ。
「…嫌だよ…だって、僕の娘だ…」
沈黙した病室は重苦しい。
先に、それに耐えられなくなったのは僕だった。
「…む〜ぅいいよ。
君なら信頼できる。
何より、結華がなついてるし…」
理不尽だ。
愛したくても、愛せない…。
それに…僕は、もうすぐいなくなる…。
「やっぱり君には分かるんだね…。
こんなにも予知の力が強くなるし、死期が近いなって思ってはいたけど…」
「今生きているのが不思議なくらいだ。
生命を保つ為の要素の均衡がかなり崩れてきているからな。
そう長くないだろう」
「……それを本人の前で言うか…」
まぁ、事実だろう。
自分でも、理解しているつもりだ。
いつからだっただろう。
自分の身体に違和感を感じるようになったのは…。
『戻って来い、瑞樹。
能力を持った者は、所詮、異端の者。
人の中では生きられん。
それよりも一族の中で暮らした方がよっぽど有益で楽だろう』
『娘ができたそうだな。
どうだ、その娘を連れて戻って来ては』
『ヒズミ様も、もう、そう長くはない。
次はお前が当主だ』
月陰の土地から出た途端に、一族の者達は接触してきた。
執拗に戻って来いと言う。
確かに、当主である祖母には会いたいと思う。
だが、それをして屋敷に戻れば、逃がしてくれた祖母の想いを裏切る事になりかねない。
「そう想い悩む事が原因だと、そろそろ理解したらどうだ」
「…けどねぇ…人とは悩むものだよ?
大きな失敗をしても、やり直す時間はないからね、慎重になるんだ」
「それにしては浅はかな行動を取る」
「…否定はしないけど、そもそもずっと慎重に行動してたら疲れるじゃないか…」
人である者は、魂の質量が人以外とは、根本的に違う。
異能力は本来、人の魂の質量では支えきれない。
だからこそ、能力を磨いてその質量を増やす事が重要になってくる。
「あ〜っも〜、何で能力なんて継いじゃったかなぁ〜。
僕の魂の質量じゃぁ、破綻するのは分かりきってんのに〜ぃ」
「もともとが非能力者と変わらんからな。
その上、おかしな実験など受けるから、更に磨り減らす事になったのだ。
その後も、能力を嫌って精進せんからこう言う事になる」
「はいはい…どうせ、僕の自業自得ですよぉ〜」
その点、結華は問題ない。
生まれた時から、魂の質量が異常だった。
その上、能力発現当初から、能力を拒んでいない。
更に、去年亡くなったシェリルに、魔術も教わっていたようだった。
きっと今はもう、人の枠に収まらないだろう。
「結華の事……よろしく頼むよ…あの子はもう、僕よりも君達に近い存在になっている。
結華は強いから、人に何と思われようと平気かもしれないけど…」
僕とは違う。
結華なら、能力とも上手に折り合いをつけていくだろう。
開いた口が塞がらないなんて事を実際に経験するとは思わなかった。
「……間違えだ。
私が引き取る」
「あ〜、養女って事ね…。
嫁にくれと言われてるのかと思って焦ったよ…」
「妻はシェリーだけだ。
それと同じで、娘は結華だけが良い」
マリューは、嘘や冗談を言える奴ではないと、誰よりもよく知っている。
その決意も本物だ。
「…嫌だよ…だって、僕の娘だ…」
沈黙した病室は重苦しい。
先に、それに耐えられなくなったのは僕だった。
「…む〜ぅいいよ。
君なら信頼できる。
何より、結華がなついてるし…」
理不尽だ。
愛したくても、愛せない…。
それに…僕は、もうすぐいなくなる…。
「やっぱり君には分かるんだね…。
こんなにも予知の力が強くなるし、死期が近いなって思ってはいたけど…」
「今生きているのが不思議なくらいだ。
生命を保つ為の要素の均衡がかなり崩れてきているからな。
そう長くないだろう」
「……それを本人の前で言うか…」
まぁ、事実だろう。
自分でも、理解しているつもりだ。
いつからだっただろう。
自分の身体に違和感を感じるようになったのは…。
『戻って来い、瑞樹。
能力を持った者は、所詮、異端の者。
人の中では生きられん。
それよりも一族の中で暮らした方がよっぽど有益で楽だろう』
『娘ができたそうだな。
どうだ、その娘を連れて戻って来ては』
『ヒズミ様も、もう、そう長くはない。
次はお前が当主だ』
月陰の土地から出た途端に、一族の者達は接触してきた。
執拗に戻って来いと言う。
確かに、当主である祖母には会いたいと思う。
だが、それをして屋敷に戻れば、逃がしてくれた祖母の想いを裏切る事になりかねない。
「そう想い悩む事が原因だと、そろそろ理解したらどうだ」
「…けどねぇ…人とは悩むものだよ?
大きな失敗をしても、やり直す時間はないからね、慎重になるんだ」
「それにしては浅はかな行動を取る」
「…否定はしないけど、そもそもずっと慎重に行動してたら疲れるじゃないか…」
人である者は、魂の質量が人以外とは、根本的に違う。
異能力は本来、人の魂の質量では支えきれない。
だからこそ、能力を磨いてその質量を増やす事が重要になってくる。
「あ〜っも〜、何で能力なんて継いじゃったかなぁ〜。
僕の魂の質量じゃぁ、破綻するのは分かりきってんのに〜ぃ」
「もともとが非能力者と変わらんからな。
その上、おかしな実験など受けるから、更に磨り減らす事になったのだ。
その後も、能力を嫌って精進せんからこう言う事になる」
「はいはい…どうせ、僕の自業自得ですよぉ〜」
その点、結華は問題ない。
生まれた時から、魂の質量が異常だった。
その上、能力発現当初から、能力を拒んでいない。
更に、去年亡くなったシェリルに、魔術も教わっていたようだった。
きっと今はもう、人の枠に収まらないだろう。
「結華の事……よろしく頼むよ…あの子はもう、僕よりも君達に近い存在になっている。
結華は強いから、人に何と思われようと平気かもしれないけど…」
僕とは違う。
結華なら、能力とも上手に折り合いをつけていくだろう。