月陰伝(一)
そのメールが届いたのは、あの船の事件から、五日目の事だった。
マリュヒャによって、屋敷に半ば軟禁状態だった私は、これ幸いと飛び付いた。
「お父様」
本部へと出掛ける支度をしていたマリュヒャを捕まえ、事情を話す。
「父の墓参りに行きたいとの連絡があったのですが…。
行ってもよろしいですか?」
マリュヒャも、ここ最近の軟禁状態を、少し、やり過ぎだと感じていたらしく、苦笑ぎみに良いと呟いた。
「律も連れて行ってやれ。
ついでに少し遊びにでも行くと良い。
だが、明日には本部へ顔を出してもらえるか?
他が煩くて敵わん…」
「他?」
「っいや…気をつけて行ってきなさい。
神族の事も決着したわけではないからな」
「はい」
そうして、マリュヒャを見送り、律を連れて久しぶりに外界へとくり出したのだった。
神城家の家の前に着くと、美輝にメールを送った。
すると、すぐに勢い良く玄関が開いた。
「っおねぇちゃんっ」
「っうわっ」
感極まった体で、弾丸の様に突進して飛び付いてきた美輝を何とか抱き止め、ホッとしていれば、次に夏樹と母が飛び付いてくる気配を感じて、反射的に身構えた。
「結姉っ」
「っ結華っ」
「っくっ…重い…っ」
身動きが取れない…っ。
「う〜ぅ…っ」
そこで、下の方から抗議の呻きが発せられた。
「お?」
「ん?あれ?
律くん?」
「むぅっ、ねぇさまからはなれてくださいっ。
だきついちゃだめですっ」
「なっ何?
誰?
この子…?」
律に注意が反れたお陰で、解放され息をついた。
ふと顔を上げると、戸締まりをしながら、雪仁と、晴海、明人さんが出てきた。
「結華ちゃん。
久しぶり、怪我は大丈夫…そうだね」
「はい。
もう問題ありません」
「良かった…それで?
その子は誰だい?」
明人さんが目で指した先では、美輝と夏樹が律とにらみ合いをしていた。
「律、そんな目をしないで。
ご挨拶してちょうだい」
「む…はい…。
はじめまして、おとうとのリツといいます」
「律は、血の上では、従弟になります。
生まれてすぐに、マリュー様が引き取りました」
「生まれてすぐに…?」
母が律を見つめて言うと、それにはっきりと律が答えた。
「ほんとうのおかぁさまとおとぉさまは、もういません」
「っ……」
「気にしなくていいよ。
律も理解しているから」
そう言うと、母は少し微笑みながら、律の前で目を合わせるように膝をついた。
「初めまして。
妃です。
よろしくね、律君」
「はいっ。
よろしくおねがいしますっ」
「流石は結華ちゃんの弟君だ。
しっかりしてるね。
何歳?」
明人さんの質問に対して、律がはっきりと答えた。
「サンさいです。
もうすぐヨンさいになります」
「本当にしっかりしていますね…。
結華さん?でしたか…。
大変お世話になったようで…晴海と言います。
先日はお礼も言えませんでしたので…」
丁寧に頭を下げる晴海に、真っ直ぐ向かい合うように立った。
「いいえ。
もう体調は大丈夫ですか?」
「お陰様で…それと、できましたら、彼女の……」
決まり悪気にした晴海が何を言いたいのかは分かっていた。
鞄から、パソコン用のメモリーを取りだし、晴海へ差し出した。
神族と、神崎祥子についてまとめたものが入っている。
当事者である晴海には、また彼女が接触して来ないとも限らない。
その為の情報だ。
「これに、晴海さんが知りたい事が入っています。
ただ、一度目を通すと、このデータは全て消えるようになっているので、そこだけ注意してください」
「……わかりました」
慎重に受け取った晴海は、持っていた鞄に入れた。
「では、行きましょう。
車は用意しました」
待たせていた車へ案内すると、全員が目を丸くした。
「「「ッ…リムジン!?」」」
マリュヒャによって、屋敷に半ば軟禁状態だった私は、これ幸いと飛び付いた。
「お父様」
本部へと出掛ける支度をしていたマリュヒャを捕まえ、事情を話す。
「父の墓参りに行きたいとの連絡があったのですが…。
行ってもよろしいですか?」
マリュヒャも、ここ最近の軟禁状態を、少し、やり過ぎだと感じていたらしく、苦笑ぎみに良いと呟いた。
「律も連れて行ってやれ。
ついでに少し遊びにでも行くと良い。
だが、明日には本部へ顔を出してもらえるか?
他が煩くて敵わん…」
「他?」
「っいや…気をつけて行ってきなさい。
神族の事も決着したわけではないからな」
「はい」
そうして、マリュヒャを見送り、律を連れて久しぶりに外界へとくり出したのだった。
神城家の家の前に着くと、美輝にメールを送った。
すると、すぐに勢い良く玄関が開いた。
「っおねぇちゃんっ」
「っうわっ」
感極まった体で、弾丸の様に突進して飛び付いてきた美輝を何とか抱き止め、ホッとしていれば、次に夏樹と母が飛び付いてくる気配を感じて、反射的に身構えた。
「結姉っ」
「っ結華っ」
「っくっ…重い…っ」
身動きが取れない…っ。
「う〜ぅ…っ」
そこで、下の方から抗議の呻きが発せられた。
「お?」
「ん?あれ?
律くん?」
「むぅっ、ねぇさまからはなれてくださいっ。
だきついちゃだめですっ」
「なっ何?
誰?
この子…?」
律に注意が反れたお陰で、解放され息をついた。
ふと顔を上げると、戸締まりをしながら、雪仁と、晴海、明人さんが出てきた。
「結華ちゃん。
久しぶり、怪我は大丈夫…そうだね」
「はい。
もう問題ありません」
「良かった…それで?
その子は誰だい?」
明人さんが目で指した先では、美輝と夏樹が律とにらみ合いをしていた。
「律、そんな目をしないで。
ご挨拶してちょうだい」
「む…はい…。
はじめまして、おとうとのリツといいます」
「律は、血の上では、従弟になります。
生まれてすぐに、マリュー様が引き取りました」
「生まれてすぐに…?」
母が律を見つめて言うと、それにはっきりと律が答えた。
「ほんとうのおかぁさまとおとぉさまは、もういません」
「っ……」
「気にしなくていいよ。
律も理解しているから」
そう言うと、母は少し微笑みながら、律の前で目を合わせるように膝をついた。
「初めまして。
妃です。
よろしくね、律君」
「はいっ。
よろしくおねがいしますっ」
「流石は結華ちゃんの弟君だ。
しっかりしてるね。
何歳?」
明人さんの質問に対して、律がはっきりと答えた。
「サンさいです。
もうすぐヨンさいになります」
「本当にしっかりしていますね…。
結華さん?でしたか…。
大変お世話になったようで…晴海と言います。
先日はお礼も言えませんでしたので…」
丁寧に頭を下げる晴海に、真っ直ぐ向かい合うように立った。
「いいえ。
もう体調は大丈夫ですか?」
「お陰様で…それと、できましたら、彼女の……」
決まり悪気にした晴海が何を言いたいのかは分かっていた。
鞄から、パソコン用のメモリーを取りだし、晴海へ差し出した。
神族と、神崎祥子についてまとめたものが入っている。
当事者である晴海には、また彼女が接触して来ないとも限らない。
その為の情報だ。
「これに、晴海さんが知りたい事が入っています。
ただ、一度目を通すと、このデータは全て消えるようになっているので、そこだけ注意してください」
「……わかりました」
慎重に受け取った晴海は、持っていた鞄に入れた。
「では、行きましょう。
車は用意しました」
待たせていた車へ案内すると、全員が目を丸くした。
「「「ッ…リムジン!?」」」