月陰伝(一)
「…私…リムジンなんて初めて乗った…」
「俺も…落ち着かないもんなんだな…」
車から下り、墓地へと向かう中、美輝と夏樹が疲れたように呟いた。
「人数が多かったからね。
何?リムジン嫌い?」
「いや…嫌いとか好きって話のレベルじゃねぇって…」
「…おねぇちゃんは普通なんだ?」
「マリュー様とこっちに来る時は、たいていあの車だったから慣れた。
確か律は、あれしか乗った事ないよね」
「はいっ。
でもこんど、フィルさまにあかいのにのせてもらいますっ」
「赤いの?」
律を挟んで反対側を歩いていた母が訊ねる。
「あぁ、フィル様の赤いリムジンか」
「…あ…赤いの…?」
「うん。
ピンクより良いかな…」
「う…うん…。
ピンクはないね…」
「…おう…ピンクは…絶対に嫌だな…」
何か良く分からない所で納得したみたいだ。
広大な集合墓地。
その一つに向かい、迷わず進む。
不思議だ…。
年に一度の命日だけに訪れているのに、足は迷わず動く。
「…いつもは、あの…マリュー様とか言う方と来るの…?」
そう聞いてきた母に、首を振った。
「ううん。
一人。
命日にだけ、日が昇る頃に花を持って掃除だけしにね。
マリュー様は、夕方に来てるみたい。
確か佐紀をお供に…」
その日だけは、何人か訪れるだろうから、せめて綺麗にしようと思っている。
お参りではなく、掃除をするために来るのだ。
「ここだよ」
命日から半年以上経っているので、さすがに草が周りを覆っていた。
「少し待ってね」
そう言って、他に人が居ない事を確認すると、素早く魔術で草を消去した。
「便利だねぇ…まさか、こうする為に朝早く来るの?」
「そうですよ?
早くてキレイにできます。
ゴミも出ません。
粒子レベルで、根まで分解しますからね。
後は、石を水拭きして、花を供えて終わりです。
五分でできますよ?」
皆が何とも言えないような顔をして黙ってしまった。
唯一、晴海だけがコメントをくれた。
「……事務的な感じなんですね…」
「私はあまり、父には歓迎されていないと思うので、これで良いんです」
その言葉に反応したのは母だった。
「どう言う事…?」
少し怒ったような口調に、一瞬驚いたが、手を動かしながら、苦笑ぎみに答えた。
「父さんが唯一大切に思う存在は、母さんだった。
その母さんと距離が出来てしまった原因は私。
そして反対に、何より憎んだのは、真紅一族の血……。
私と言う存在は、父さんにとって、禁忌とさえ思えるようなものだった…。
私がその事に気付いた頃には、目さえ合わなくなってた……ただの墓守りでちょうど良いんだよ」
「っそんなっ…」
その批難する声を背に受けながら、花を供え終わると、もう用は済んだと墓から離れた。
「っどこに行くのっ?」
「あの林の奥に、一族の墓があるんだ。
律を連れてきたのはその為…。
じゃあ、ちょっと行ってくるから」
そう背を向けようとして、あることを思い出し、墓石に向かって一言告げた。
「約束は果たしたよ」
それに首を傾げる面々に、笑いながら答えた。
「母さんを連れて来るって、約束してたんだ。
これで完了。
さぁ律、行こうか」
「はいっ」
「っあ…」
声を上げる母が気にはなったが、長居は無用と、律と手を繋いでその場を後にした。
「俺も…落ち着かないもんなんだな…」
車から下り、墓地へと向かう中、美輝と夏樹が疲れたように呟いた。
「人数が多かったからね。
何?リムジン嫌い?」
「いや…嫌いとか好きって話のレベルじゃねぇって…」
「…おねぇちゃんは普通なんだ?」
「マリュー様とこっちに来る時は、たいていあの車だったから慣れた。
確か律は、あれしか乗った事ないよね」
「はいっ。
でもこんど、フィルさまにあかいのにのせてもらいますっ」
「赤いの?」
律を挟んで反対側を歩いていた母が訊ねる。
「あぁ、フィル様の赤いリムジンか」
「…あ…赤いの…?」
「うん。
ピンクより良いかな…」
「う…うん…。
ピンクはないね…」
「…おう…ピンクは…絶対に嫌だな…」
何か良く分からない所で納得したみたいだ。
広大な集合墓地。
その一つに向かい、迷わず進む。
不思議だ…。
年に一度の命日だけに訪れているのに、足は迷わず動く。
「…いつもは、あの…マリュー様とか言う方と来るの…?」
そう聞いてきた母に、首を振った。
「ううん。
一人。
命日にだけ、日が昇る頃に花を持って掃除だけしにね。
マリュー様は、夕方に来てるみたい。
確か佐紀をお供に…」
その日だけは、何人か訪れるだろうから、せめて綺麗にしようと思っている。
お参りではなく、掃除をするために来るのだ。
「ここだよ」
命日から半年以上経っているので、さすがに草が周りを覆っていた。
「少し待ってね」
そう言って、他に人が居ない事を確認すると、素早く魔術で草を消去した。
「便利だねぇ…まさか、こうする為に朝早く来るの?」
「そうですよ?
早くてキレイにできます。
ゴミも出ません。
粒子レベルで、根まで分解しますからね。
後は、石を水拭きして、花を供えて終わりです。
五分でできますよ?」
皆が何とも言えないような顔をして黙ってしまった。
唯一、晴海だけがコメントをくれた。
「……事務的な感じなんですね…」
「私はあまり、父には歓迎されていないと思うので、これで良いんです」
その言葉に反応したのは母だった。
「どう言う事…?」
少し怒ったような口調に、一瞬驚いたが、手を動かしながら、苦笑ぎみに答えた。
「父さんが唯一大切に思う存在は、母さんだった。
その母さんと距離が出来てしまった原因は私。
そして反対に、何より憎んだのは、真紅一族の血……。
私と言う存在は、父さんにとって、禁忌とさえ思えるようなものだった…。
私がその事に気付いた頃には、目さえ合わなくなってた……ただの墓守りでちょうど良いんだよ」
「っそんなっ…」
その批難する声を背に受けながら、花を供え終わると、もう用は済んだと墓から離れた。
「っどこに行くのっ?」
「あの林の奥に、一族の墓があるんだ。
律を連れてきたのはその為…。
じゃあ、ちょっと行ってくるから」
そう背を向けようとして、あることを思い出し、墓石に向かって一言告げた。
「約束は果たしたよ」
それに首を傾げる面々に、笑いながら答えた。
「母さんを連れて来るって、約束してたんだ。
これで完了。
さぁ律、行こうか」
「はいっ」
「っあ…」
声を上げる母が気にはなったが、長居は無用と、律と手を繋いでその場を後にした。