月陰伝(一)
ここで引いてはいけない。
隙を見せてはいけない。
表で彼は、紳士的で魅力ある男として有名だ。
女子高生から六十過ぎのおばさんまでも虜にすると言われている。
しかし、この男の本当の名前は”紫藤総司”。
紫藤一族は、家族全員が”復讐屋”。
復讐……いわゆる暗殺を仕事として請け負う者達。
その中でも、紫藤一族は、裏では知らない者はないと言わしめる程の実力を持った一族だ。
人であるのに、人間離れした身体能力。
優れた情報収集能力を持ち、月陰同様、世界中で仕事を請け負っている。
一族の始まりは、”忍”。
昔は隠れ里を築き一族全員がその里に住んでいたが、時代と共に人里に紛れ、今は一族がバラバラになり、各地に事務所を構えている。
探偵事務所。
何でも屋。
お悩み相談所。
一族が経営する様々な事務所で、裏の仕事として復讐屋を営んでいるのだ。
その一族の中でも”紫藤総司”は別格だった。
本家の直系で、能力も歴代一だと言われている。
次期当主は、間違いなくこの男だろう。
「う〜ん。
仕方ないね。
お祖父様に君の方から説明してくれるなら、確かに僕に問題はないよ。
それに前金は貰ってるし、どうせ仕事が完了した所で、どのみち彼らの名前は表には出ないだろうしね。
依頼完了って事で上手く報酬も貰えそうだ」
優しく微笑む様な顔は、確かに魅力的かもしれない。
ただ、この男の表面だけを見ていればだ。
警戒を解く事なく、部屋の入り口へと促すように、一歩引いて道を空ける。
「南へ抜けられるようにしておく」
これで交渉成立と、見送る姿勢を取ったその時、不意に廊下に転移魔術の気配が生まれた。
「結華っ大丈夫かっ?!」
佐紀だと分かり、そちらに気を取られたのがいけなかった。
腕を引かれ、引き寄せられる。
口を塞がれたのだと理解した時には、腕を腰に回され、濃厚な口付けを受けていた。
「ッ結華っ!!」
「っ……んっ…くっふざけんなッッ!」
背中から勢いよく抜いた鉄扇で、下から斜めに斬り上げた。
後ろへと飛び退き、こちらを見て笑みを浮かべる紫藤を、キツく睨み付ける。
鉄扇は、紫藤の胸の辺りを切り裂き、服に血の黒いシミを作っていた。
しかし、傷を負った当の本人は、この上なく嬉しそうに笑っていた。
「ははっ、いいねぇやっぱりっ。
僕に傷をつけられるのは君くらいだっ。
こんなにも愛しいと思えるのも君だけ。
本当に、欲しいと言う想いが止まらないよっ」
どれだけ情熱的に口説かれたとしても、この男にだけは靡かない。
『絶対』と言う言葉が嫌いな私が、唯一『絶対に好きにならない』と言える程嫌いだった。
本当に腹が立つ男だ。
「そんなに睨まないでくれ、あぁでも、ずっとこうして見つめ合っているのも悪くないね…」
本当に勘弁してくれ。
こうなったら何を言っても無駄だ。
どんな態度を取っても、おかしな受け止め方をされて、ウザい思いをする。
「怒ってる?
ははっ、機嫌直してよ。
代わりに、君達が知らないとっておきの情報をあげるから」
隙を見せてはいけない。
表で彼は、紳士的で魅力ある男として有名だ。
女子高生から六十過ぎのおばさんまでも虜にすると言われている。
しかし、この男の本当の名前は”紫藤総司”。
紫藤一族は、家族全員が”復讐屋”。
復讐……いわゆる暗殺を仕事として請け負う者達。
その中でも、紫藤一族は、裏では知らない者はないと言わしめる程の実力を持った一族だ。
人であるのに、人間離れした身体能力。
優れた情報収集能力を持ち、月陰同様、世界中で仕事を請け負っている。
一族の始まりは、”忍”。
昔は隠れ里を築き一族全員がその里に住んでいたが、時代と共に人里に紛れ、今は一族がバラバラになり、各地に事務所を構えている。
探偵事務所。
何でも屋。
お悩み相談所。
一族が経営する様々な事務所で、裏の仕事として復讐屋を営んでいるのだ。
その一族の中でも”紫藤総司”は別格だった。
本家の直系で、能力も歴代一だと言われている。
次期当主は、間違いなくこの男だろう。
「う〜ん。
仕方ないね。
お祖父様に君の方から説明してくれるなら、確かに僕に問題はないよ。
それに前金は貰ってるし、どうせ仕事が完了した所で、どのみち彼らの名前は表には出ないだろうしね。
依頼完了って事で上手く報酬も貰えそうだ」
優しく微笑む様な顔は、確かに魅力的かもしれない。
ただ、この男の表面だけを見ていればだ。
警戒を解く事なく、部屋の入り口へと促すように、一歩引いて道を空ける。
「南へ抜けられるようにしておく」
これで交渉成立と、見送る姿勢を取ったその時、不意に廊下に転移魔術の気配が生まれた。
「結華っ大丈夫かっ?!」
佐紀だと分かり、そちらに気を取られたのがいけなかった。
腕を引かれ、引き寄せられる。
口を塞がれたのだと理解した時には、腕を腰に回され、濃厚な口付けを受けていた。
「ッ結華っ!!」
「っ……んっ…くっふざけんなッッ!」
背中から勢いよく抜いた鉄扇で、下から斜めに斬り上げた。
後ろへと飛び退き、こちらを見て笑みを浮かべる紫藤を、キツく睨み付ける。
鉄扇は、紫藤の胸の辺りを切り裂き、服に血の黒いシミを作っていた。
しかし、傷を負った当の本人は、この上なく嬉しそうに笑っていた。
「ははっ、いいねぇやっぱりっ。
僕に傷をつけられるのは君くらいだっ。
こんなにも愛しいと思えるのも君だけ。
本当に、欲しいと言う想いが止まらないよっ」
どれだけ情熱的に口説かれたとしても、この男にだけは靡かない。
『絶対』と言う言葉が嫌いな私が、唯一『絶対に好きにならない』と言える程嫌いだった。
本当に腹が立つ男だ。
「そんなに睨まないでくれ、あぁでも、ずっとこうして見つめ合っているのも悪くないね…」
本当に勘弁してくれ。
こうなったら何を言っても無駄だ。
どんな態度を取っても、おかしな受け止め方をされて、ウザい思いをする。
「怒ってる?
ははっ、機嫌直してよ。
代わりに、君達が知らないとっておきの情報をあげるから」