月陰伝(一)
彼らの立ち止まった前方。
一足跳びの距離にタンッと降り立ち、ゆっくりと全員の顔を確認する。

「っなっ何だ?!」
「嬢ちゃん、誰だ?
そこをどけっ」

ニヤリと笑みを刻みながら、腰の後ろに差してある愛用の武器に手をかける。

「ッ何だってめェっ。
殺ろうってぇのか?!」
「フフっ、ドスにでも見えた?
残念だけど、これは…」
「何だ?!」

胸の前で広げた武器は、この暗い路地でも銀に煌めく。

「…?扇?」

頭のおかしい子を見たと言うように眉をひそめ、気を弛める彼らに、次の瞬間パチリと閉じ、その先端を向ける。

「ただの扇じゃないよ。
まぁ、一瞬しか見えないと思うけど、よく目を開いておくといい」
「っはぁんっ?
悪いが、付き合ってらんねぇっ」

一歩を踏み出した男は、次の一歩を踏み出す事はできなかった。

「見えた?」

そう呟いたのは、その男の耳元。
しかし、応えが返る事はなかった。

「っなッなんッ……」

そう叫んだ男も、その先を話せなかった。
トントンっと彼らの背後へと到達し、足を踏み鳴らす時には、八人の人影は、地に縫い止められた影のように、全員臥せってしまっていたのだった。

「やっぱし、つまんない…」
『あっ結さん終わっちゃいましたか?
今、C地点の回収が終わったんで、後五分少々お待ちくださ〜い』
「いいよ。
ちょうど暇潰しが来たみたいだし」
『そのよ〜ですね〜』
「っはぁっ結っ…終わったのか…?」
「うん。
そっちも?」
「おう。
与一さん達が来てくれたんでな…。
回収も早く済んだみたいだ」
「ふ〜ん?
もしかして、与一に任せてすぐに走って来たの?」
「そうだけど…」
「わざわざ?
何で?」
「っ〜…っ結一人じゃ…っどうかと…っ思って…っ。
っそれにッ、変な事言ってただろっ?
気にっ…なったって言うか…っ」

ああ、勘当されたって話ね…。

「別に気にしなくていいよ。
今までだって、同じ家にいても居ない様なもんだったし、月陰に部屋はあるから、住むとこには困んないしさ。
生活費だって、貰った事なかったし」
『『『「っはぁ?!」』』』

あっしまった…インカム外してなかった。

『結さんっ今の話、本当ですか?!
聞いてないっすよ?!』
「言ってないよ」
『育児ホウキってやつですか〜?
よく平気でしたね〜。
結さんの所って〜母子家庭じゃなかったですか?』
「そう。
まぁ母親は物心つく頃には、私に興味なかったし?
私も月陰の方ばっかに居たしね。
一ヶ月に一度顔合わせればいいくらいの生活だったからね」
「っだからって、結はまだ高校生だろ?!」
『『『えっ?!』』』

おい、驚く所が違わないか?


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