月陰伝(一)
「紫藤総司か…なるほどな…」
仕方なく、あの夜の真相を煉夜に話し、そろそろ午後の授業に向かうべく片付けはじめる。
「けど、よかったじゃないか。
きっかけがどうでも、ようやく佐紀もお前に気持ちを伝えられて、お前も嫌じゃなかったんだろ?」
「…そうだけど…何か…佐紀の想いを利用したみたいで…嫌って言うか…気まずくて…」
「正直な所、お前はどうなんだ?
佐紀の事、そう言うふうには思えないのか?」
「分からないんだよ…。
恋とかそう言うの…したことないし…」
ずっと生きる事だけに必死だった。
母に捨てられても、生きていけるようになろうと決めていたから。
誰にも迷惑を掛けずに生きていけるだけの力をつけようと、日々それだけを考えていた。
誰かを好きだとか、好きになってもらいたいとか、そんな事思った事はなかった。
もちろん、マリュヒャにだけは嫌われたくないと考えてはいた。
けれどそれも私が生きる為なんだろう。
後見人としてマリュヒャを見ていただけに過ぎないのだと思う。
こうして考えると、何てつまらない人間なんだろう。
自分がこんなにも乏しい人間だったとは思わなかった。
「良い機会じゃないか。
ちゃんと考えろ。
お前が答えを出すまで、佐紀は待ってくれるさ。
何たって、七年お前に片想いしてた奴だからなっ」
「!?はい???」
「やっぱ知らなかったのか?
あいつも自覚したのは五年前だがな。
恋に落ちた瞬間は、マジでうけたっ。
あれは言葉では言い表せない。
けどな、『あぁ、落ちたな』って端から見ててまる分かりだったぞ。
私も隣にいたのに、もうお前しか見えてないんだよなぁ。
あの時まだお前も私も小学生のガキでさぁ。
ロリコンだったらどうしようかと、これでも本当に心配したんだ」
小学生?
七年前って言ったら、確かに出会って間もない頃だ。
私がようやく力の自覚をして、たまに暴走する力に怯えていた頃。
煉夜に連れられて、魔女である佐紀の母に制御法を教えてもらおうと訪ねた時。
「…もしかして…力の制御を教えてくれるのが佐紀だったのって…」
「そうそう。
サミュー様が、面白がってなぁ。
滅茶苦茶笑いながら『そんじゃ、息子がお相手になるわっ』ってなっ」
知らなかった…。
それじゃあ、本当に最初から?
「鈍感なお前には、最適だと思うよ。
何よりお似合いのカップルになりそうだ。
マリュヒャ様も佐紀なら認めるさ」
何て無責任に楽観的な見解…。
でも…うんっ…向き合ってみよう…。
佐紀とならゆっくりと歩いていける。
ずっと今までもそうだったように、さり気無く傍に居てくれるから。
「考えるよ。
ちゃんと、佐紀の為にも」
「おう。
お前なら大丈夫だ」
仕方なく、あの夜の真相を煉夜に話し、そろそろ午後の授業に向かうべく片付けはじめる。
「けど、よかったじゃないか。
きっかけがどうでも、ようやく佐紀もお前に気持ちを伝えられて、お前も嫌じゃなかったんだろ?」
「…そうだけど…何か…佐紀の想いを利用したみたいで…嫌って言うか…気まずくて…」
「正直な所、お前はどうなんだ?
佐紀の事、そう言うふうには思えないのか?」
「分からないんだよ…。
恋とかそう言うの…したことないし…」
ずっと生きる事だけに必死だった。
母に捨てられても、生きていけるようになろうと決めていたから。
誰にも迷惑を掛けずに生きていけるだけの力をつけようと、日々それだけを考えていた。
誰かを好きだとか、好きになってもらいたいとか、そんな事思った事はなかった。
もちろん、マリュヒャにだけは嫌われたくないと考えてはいた。
けれどそれも私が生きる為なんだろう。
後見人としてマリュヒャを見ていただけに過ぎないのだと思う。
こうして考えると、何てつまらない人間なんだろう。
自分がこんなにも乏しい人間だったとは思わなかった。
「良い機会じゃないか。
ちゃんと考えろ。
お前が答えを出すまで、佐紀は待ってくれるさ。
何たって、七年お前に片想いしてた奴だからなっ」
「!?はい???」
「やっぱ知らなかったのか?
あいつも自覚したのは五年前だがな。
恋に落ちた瞬間は、マジでうけたっ。
あれは言葉では言い表せない。
けどな、『あぁ、落ちたな』って端から見ててまる分かりだったぞ。
私も隣にいたのに、もうお前しか見えてないんだよなぁ。
あの時まだお前も私も小学生のガキでさぁ。
ロリコンだったらどうしようかと、これでも本当に心配したんだ」
小学生?
七年前って言ったら、確かに出会って間もない頃だ。
私がようやく力の自覚をして、たまに暴走する力に怯えていた頃。
煉夜に連れられて、魔女である佐紀の母に制御法を教えてもらおうと訪ねた時。
「…もしかして…力の制御を教えてくれるのが佐紀だったのって…」
「そうそう。
サミュー様が、面白がってなぁ。
滅茶苦茶笑いながら『そんじゃ、息子がお相手になるわっ』ってなっ」
知らなかった…。
それじゃあ、本当に最初から?
「鈍感なお前には、最適だと思うよ。
何よりお似合いのカップルになりそうだ。
マリュヒャ様も佐紀なら認めるさ」
何て無責任に楽観的な見解…。
でも…うんっ…向き合ってみよう…。
佐紀とならゆっくりと歩いていける。
ずっと今までもそうだったように、さり気無く傍に居てくれるから。
「考えるよ。
ちゃんと、佐紀の為にも」
「おう。
お前なら大丈夫だ」