月陰伝(一)
「そんな所で働いているなんて…兄は一言も…」
それは、あえて言わないだろう。
刹那は、ある能力を持ってしまった事がきっかけで、月陰会に所属する事になった。
普通の新入社員の様に入社試験を受けたわけではない。
しかし、シャドーも月陰会も実力主義。
その能力を買われたからこそ、一員として認められている。
だが、刹那にしてみれば、試験もなく成り行きで入った会社と思っているのだろう。
家族に説明もし辛いかもしれないが…。
「教えないのは、聞かれないからじゃないですか?
シャドーの社員は、秘密主義ですけど、社員である事を特に隠したりはしません。
でも、あえて公言もしませんから」
シャドーの仕事の一つに、”派遣業務”がある。
優秀な人材を抱えるシャドーから、企業の躍進を図る為に、一定期間、依頼された企業に派遣と言う形で雇用され、業務の効率化や、人材の育成を請け負う。
同時に、シャドーの社員は優秀だと言う事をアピールする事で、並ぶものなきトップ企業として認識を強めるのだ。
「そっか…。
ありがとう。
兄とは…性格的に合わないみたいで…苦手って言うのかな…?
兄弟なのに、知らない事が多くて…」
刹那は誤解を受けやすいからな…。
「知りたいと思ったのなら、苦手だとか思っては駄目ですよ。
ただ何となく苦手だと思っているなら、はっきりさせなくては」
「はっきりさせる?」
「苦手と思う感情は、恐怖に繋がります。
恐怖は、不確かなもの、未知のものに対して感じるものですから。
克服する方法は、ただ一つ。
”知る”事だと思うんです。
知った上で合わないと思う事も確かにあるんでしょうが…。
でも、それは納得した事になる。
結果、”嫌い”と言うよりも”認めた存在”になります。
そのほうが気持ちがいいと思いません?」
「…っ…ああ…」
「人は、探究する生き物なんです。
知りたいと思う欲が強い。
けど、世界が生きやすくなった事によって、昔よりもそれを持続させる事ができなくなってきてしまっていますね。
知ろうとするには、エネルギー、熱意が必要ですが、それは非常に疲れる。
だから、途中で諦めてしまうんです」
中途半端で終わるから、おかしな偏見などが生まれてしまう。
最近の若者は特に、持続力が足りない。
そして何より、知ろうとする意欲がなくなってきてしまっている。
「家族なんですから、理解したいですよね…」
「そうだね」
大丈夫。
話が通じるなら、問題はない。
「刹那っ…さんは、良い人です。
心配性で、気苦労が多そうですけど、良い友人達に恵まれている。
楽天的な所もありますが、先を見て常に色々と考えている。
父が言っていました。
彼は、補佐の才を持っていると…」
「補佐…?」
「ええ、稀有な才能です。
特に今の様な時代には…」
先を読み、ギリギリを見極める。
どんな時でも、冷静に判断ができ、正確に次を読む。
まだまだ成長段階だが、今後良い戦力となっていくだろう。
それは、あえて言わないだろう。
刹那は、ある能力を持ってしまった事がきっかけで、月陰会に所属する事になった。
普通の新入社員の様に入社試験を受けたわけではない。
しかし、シャドーも月陰会も実力主義。
その能力を買われたからこそ、一員として認められている。
だが、刹那にしてみれば、試験もなく成り行きで入った会社と思っているのだろう。
家族に説明もし辛いかもしれないが…。
「教えないのは、聞かれないからじゃないですか?
シャドーの社員は、秘密主義ですけど、社員である事を特に隠したりはしません。
でも、あえて公言もしませんから」
シャドーの仕事の一つに、”派遣業務”がある。
優秀な人材を抱えるシャドーから、企業の躍進を図る為に、一定期間、依頼された企業に派遣と言う形で雇用され、業務の効率化や、人材の育成を請け負う。
同時に、シャドーの社員は優秀だと言う事をアピールする事で、並ぶものなきトップ企業として認識を強めるのだ。
「そっか…。
ありがとう。
兄とは…性格的に合わないみたいで…苦手って言うのかな…?
兄弟なのに、知らない事が多くて…」
刹那は誤解を受けやすいからな…。
「知りたいと思ったのなら、苦手だとか思っては駄目ですよ。
ただ何となく苦手だと思っているなら、はっきりさせなくては」
「はっきりさせる?」
「苦手と思う感情は、恐怖に繋がります。
恐怖は、不確かなもの、未知のものに対して感じるものですから。
克服する方法は、ただ一つ。
”知る”事だと思うんです。
知った上で合わないと思う事も確かにあるんでしょうが…。
でも、それは納得した事になる。
結果、”嫌い”と言うよりも”認めた存在”になります。
そのほうが気持ちがいいと思いません?」
「…っ…ああ…」
「人は、探究する生き物なんです。
知りたいと思う欲が強い。
けど、世界が生きやすくなった事によって、昔よりもそれを持続させる事ができなくなってきてしまっていますね。
知ろうとするには、エネルギー、熱意が必要ですが、それは非常に疲れる。
だから、途中で諦めてしまうんです」
中途半端で終わるから、おかしな偏見などが生まれてしまう。
最近の若者は特に、持続力が足りない。
そして何より、知ろうとする意欲がなくなってきてしまっている。
「家族なんですから、理解したいですよね…」
「そうだね」
大丈夫。
話が通じるなら、問題はない。
「刹那っ…さんは、良い人です。
心配性で、気苦労が多そうですけど、良い友人達に恵まれている。
楽天的な所もありますが、先を見て常に色々と考えている。
父が言っていました。
彼は、補佐の才を持っていると…」
「補佐…?」
「ええ、稀有な才能です。
特に今の様な時代には…」
先を読み、ギリギリを見極める。
どんな時でも、冷静に判断ができ、正確に次を読む。
まだまだ成長段階だが、今後良い戦力となっていくだろう。