月陰伝(一)
『まだ学生だったの?』
『十代???』
『女子高生って…』

他…諸々…。

「あんた達…私を何だと…?」

そんな言い合いをしていれば、回収班が到着した。

「うげっ特務のお前が何で…っ」
「与一こそ。
回収班のお手伝いなんて珍しいじゃん?」
「っヘンッ、いいんだよっ」

刑事である久間与一。
彼は、私が大の苦手らしい。

「お疲れ様です、結華さん。
後は我々が…」
「うん。
カブ君、頼むよ」

今夜の仕事は終了。
関係者しかいない事を幸いと、左手を右胸に当て、転移の術を発動させる。

「〔オン〕」

呟かれた言葉に応えるように、左手の小指にはめられた銀の指輪が発光する。

「〔ヘルト〕」

唱えざま、左手を前へ出すと、指輪から光の糸が吹き出し、複雑な魔方陣が正面の空中に描かれた。

「それじゃ、おやすみ」
「さっさと帰れっ」
「おやすみなさい」

相変わらずな二人の両極端な態度に笑いながら、スゥっとその魔方陣に溶け込むように進む。
背中が全て魔方陣に吸い込まれたと同時にそれは消滅した。

「何度見ても不思議ですね…。
あの向こうはどうなってるんでしょう…?」
「ケッ知るかよっ。
さっさと終わらせて帰るぞっ」

面白いコンビだ。
ヤクザにしか見えない与一と、誠実を絵にかいたような優男の加布諒輔。
彼らはもう長い間、月陰との仲介をしている。

「与一さんって、本当に結の事苦手なんすね…」
「フンっ、いいか刹那坊っ。
俺らの業界で、アイツともう一人の嬢ちゃんに対する三原則を教えてやろう」
「もう一人って、煉夜さんの事…?」
「よく聞いとけっ…『一、何がなんでも、借りは速攻返せ。
二、見掛けたら、身を隠して目を閉じろ。
三、目が合ったら、なりふり構わず即逃げろ』…分かったか?!」

あの二人は、ここまで言われるほど、何をやったんだろうか。

「ま…まぁ、組織は組織を嫌うらしいから…。
でも…そこはまぁ、仲良くやりましょうよ…」
「ハンっお前らは結局最後は俺らに全部押し付けるだけだろっ」

俺らとは、警察の事だ。

「そりゃぁ、月陰は表の組織じゃないんで…。
捕まえた表の犯罪者は、引き渡すの当然っしょ?
闇に葬られちゃ、困るでしょうに…」
「うっ…そうだが…」

月陰の者が表立って派手に動いて良いなら、遠慮なくやるだろう。
隠さなくても良いと知ったら、一切の配慮はしない。

「ん゙ッん゙ッ…あぁ〜さて、それで?
コイツらで終いか?
今回のヤマは」
「いや…?
結が、大元を潰す前のゴミ掃除だって言ってたから…これからじゃないっすかね」
「何?!」
「っ…そうだったんですか…?
私どもの方はこの件、キッパリ打ち切ったみたいなんですが?」
「だから、結なんかが出てきたんでしょ?
俺らも暇じゃないっすよ?」

そう。
常に仕事は山積みだ。


< 3 / 149 >

この作品をシェア

pagetop