月陰伝(一)
「ごめんな結、お待たせ」
「大丈夫だよ」

帰ってきてすぐ、刹那にメールをした。
弟君達に会った事と、それについて話したい事があると伝えると、月陰本部の休憩室で待ち合わせをした。

「そんで、弟って…夏?」
「うん。
それと雪仁さん」
「っ雪も?!」
「彼、桂教授の生徒さんだったんだよ」

そして今日あった事を話した。

「そうか…ってか暴れんなって…怪我したらどうするっ。
ナイトも怒っただろ」
「うん。
面白かった」

刹那と南依斗は昔からの親友だ。
心配性な所とか、妙に細かい所に気付くとことか良く似ている。

「それで、大事な話なんだけど、私が勘当されたって話したじゃん?」
「ああ…母親に男ができたからだって噂も聞いたけど……」
「う〜ん。
微妙に違う。
再婚が決まって、そっちの家に入る事になったから、頭のおかしい娘は連れて行きたくないってのが理由だったんだ」
「はぁ?!」
「そんでもって、再婚相手の名前が『明人』さんで、”神城コーポ”の現社長さん」
「っっ?!」
「息子さんが四人。
奥さんは他界されてて、現在四十六才。
知ってた?」
「っッ知るわけあるかッッぁ!!」

椅子を吹っ飛ばして立ち上がり、広大な本部中に響き渡る程の声を上げ、そのまま床に座り込んだ。
そんな刹那を覗き込むように見ていたが、何事かと集まってきてしまった者達を感じて、何でもないと追い払う。
それから、まだ座り込んだままになっている刹那の傍らでしゃがみこみ、口を開いた。

「あの母なら言わないと思ってたし、知らないままでも良いかなって思ってたんだ。
あんな風に兄弟になるはずだった人達に会って、嬉しかったって言うか…刹那が”お兄ちゃん”って楽しそうだなって思ったり、夏樹に稽古付けてあげるとか、雪仁さんとお料理したり?
きっと良い家族になれただろうなと思っちゃったんだよね」

すごく好い人達だったから、そんな事を思ってしまった。
人として生きていたら、出会えたはずの未来。

「今に不満があるとかじゃないんだよ?
母の事がなくても、私はマリュー様の娘になりたかったしね。
けど、母が私の事を受け入れてくれていたら、もっと近い距離にいられたかなって」

実際に一緒に家族として生活しなくても、仲の良い親戚の様に、いつでも会える仲になれたかなと思う。

「…結は…良いのか…?
母親とこんな関係のままで」

いつの間にか真っ直ぐに見詰められ、思わぬ事を問われた。

「……嫌いにはなれないんだ。
ただ、合わなかっただけだと思ってるから。
受け入れられるタイミングとか重要なんだよね。
一方的にシャッターを閉められちゃったら、劇的な要因がないと、まず開かないのが人間だから…」


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