月陰伝(一)
いくら離れ難かったとは言え、手を繋いだまま屋敷まできてしまったのがまずかった。
ニコニコ顔のサリーとマーサに半ば強引に佐紀共々引っ張り込まれ、お茶を用意された。
何だか居たたまれない。
佐紀はなぜか普通だ。
この場合、逆のはずでは?
そうこうしていると、マリュヒャが帰ってきた。
「サキュリア、久しいな」
「はい。
ご無沙汰しております、マリュー様」
「ああ、元気そうで何よりだ。
フィルにも中々会えなくてな。
噂は聞くが…。
サミューも変わりないか?」
「ええ、父も母も相変わらずです」
”佐紀”とは、実は表での名前だ。
月光の代表である”フィリアム・ディル・サジェス”を父に持ち、星影の魔女と呼ばれる”サミュー・バルカンを母に持つ佐紀は、本来の名前を”サキュリア・ティズ・サジェス”と言う。
フィリアムもサミューもマリュヒャの旧友なのだ。
マリュヒャの傍らに立ったサリーが意味ありげに佐紀を見ている事に気付いた。
そして、なぜかマーサと後から来たカイルも同じ様に部屋の端から見ている。
それに耐えられなくなったのか、言外の言葉を理解したのか、佐紀がマリュヒャに向かって小さく頷いた。
「あの…マリュー様…っ」
「なんだ?」
意を決したように、突然立ち上がり、勢い良く頭を下げた。
「結華と結婚を前提にお付き合いさせて下さいっ」
「断るっ」
「「「えぇっ!!」」」
この場にいる六人のうち三人が声を上げた。
私と、マーサとカイルだ。
佐紀は完全に絶望したように、言葉なく立ち尽くしていた。
そんな中、サリーが優しくマリュヒャに諭す。
「旦那様。
いずれはご結婚されるかもしれませんが、今はお付き合いをするだけで、お嬢様が今すぐに出ていかれるわけではございませんよ?」
「ん?
そうか…なら許す」
「「「はい???」」」
またしても三人で声を上げ、固まった。
「佐紀様、お嬢様、旦那様もこう申しております。
良うございましたね。
ですが、節度あるお付き合いをお願いいたします。
差し出がましい事を申しました」
「…いっいえっ。
結華もまだ学生ですし、良く考えてお付き合いさせていただきます」
「ああ、サキュリアなら心配しておらんよ。
そなたくらいしか、結には釣り合わん。
よろしく頼むぞ」
「っはいっ」
こんなに円満に解決するのに、初めの『断るっ』はなんだったんだ?
佐紀を見送り、屋敷に入ると、律が駆けてきた。
「ねぇさまぁ。
おでかけながいですよっ」
むぅっと小さな頬を膨らませ、見上げてくる様は、とんでもなく可愛らしい。
抱き上げ、謝れば、ぎゅっと首に抱きついてきた。
「ねぇさま、あしたははやくかえってきてくださいねっ。
ねぇさまがかえってくると、とぉさまもかえってくるから」
「うん?」
そうなの?
それって…?
ニコニコ顔のサリーとマーサに半ば強引に佐紀共々引っ張り込まれ、お茶を用意された。
何だか居たたまれない。
佐紀はなぜか普通だ。
この場合、逆のはずでは?
そうこうしていると、マリュヒャが帰ってきた。
「サキュリア、久しいな」
「はい。
ご無沙汰しております、マリュー様」
「ああ、元気そうで何よりだ。
フィルにも中々会えなくてな。
噂は聞くが…。
サミューも変わりないか?」
「ええ、父も母も相変わらずです」
”佐紀”とは、実は表での名前だ。
月光の代表である”フィリアム・ディル・サジェス”を父に持ち、星影の魔女と呼ばれる”サミュー・バルカンを母に持つ佐紀は、本来の名前を”サキュリア・ティズ・サジェス”と言う。
フィリアムもサミューもマリュヒャの旧友なのだ。
マリュヒャの傍らに立ったサリーが意味ありげに佐紀を見ている事に気付いた。
そして、なぜかマーサと後から来たカイルも同じ様に部屋の端から見ている。
それに耐えられなくなったのか、言外の言葉を理解したのか、佐紀がマリュヒャに向かって小さく頷いた。
「あの…マリュー様…っ」
「なんだ?」
意を決したように、突然立ち上がり、勢い良く頭を下げた。
「結華と結婚を前提にお付き合いさせて下さいっ」
「断るっ」
「「「えぇっ!!」」」
この場にいる六人のうち三人が声を上げた。
私と、マーサとカイルだ。
佐紀は完全に絶望したように、言葉なく立ち尽くしていた。
そんな中、サリーが優しくマリュヒャに諭す。
「旦那様。
いずれはご結婚されるかもしれませんが、今はお付き合いをするだけで、お嬢様が今すぐに出ていかれるわけではございませんよ?」
「ん?
そうか…なら許す」
「「「はい???」」」
またしても三人で声を上げ、固まった。
「佐紀様、お嬢様、旦那様もこう申しております。
良うございましたね。
ですが、節度あるお付き合いをお願いいたします。
差し出がましい事を申しました」
「…いっいえっ。
結華もまだ学生ですし、良く考えてお付き合いさせていただきます」
「ああ、サキュリアなら心配しておらんよ。
そなたくらいしか、結には釣り合わん。
よろしく頼むぞ」
「っはいっ」
こんなに円満に解決するのに、初めの『断るっ』はなんだったんだ?
佐紀を見送り、屋敷に入ると、律が駆けてきた。
「ねぇさまぁ。
おでかけながいですよっ」
むぅっと小さな頬を膨らませ、見上げてくる様は、とんでもなく可愛らしい。
抱き上げ、謝れば、ぎゅっと首に抱きついてきた。
「ねぇさま、あしたははやくかえってきてくださいねっ。
ねぇさまがかえってくると、とぉさまもかえってくるから」
「うん?」
そうなの?
それって…?