月陰伝(一)
「今まではどうなんだ?」

話を聞いていた煉夜が、仕事をする時の目をしている事に気がついた。
こちらも合わせて切り替える。

「以前からずっとだったかもしれない。
掛け持ちで昼間と夜にパートで働いてたように見せかけて、夜はその集まりだったのかも。
夜は休みなく出掛けてるみたいだったから、更に掛け持ちでもしてるかと思ってたんだけど…」
「あまり勤勉なタイプには見えなかったしな。
親父さんが亡くなるまで、ほとんど外で働いた事なかったんじゃないか?」
「多分ね。
あれでも一応資産家のお嬢様だったから。
学生バイトの経験もないよ」
「となると…その『お友達』が気になるなぁ。
どんな『お友達』だ?
毎晩……集会か?
ふむ、愚妹よ。
この件はこちらに任せろ。
下手にお前に動かれるとやりにくい。
いいな」
「…はい…」
「結、この愚妹が気付いたんだ。
他の兄弟達も気付いているだろう。
家族と言ってもまだ日が浅いから、口には出さんだろうが……刹那には私から聞こう。
お前は、他の兄弟だ。
三人のうち二人には面識があったよな?
今日のところは、この愚妹も帰して……どこか預けられるか?」
「桂教授の所なら問題ないよ。
今から連絡する。
ついでに雪仁さんに会えるしね」
「なら、それでいこう。
三時に一旦いつもの所で」
「わかった。
美輝、ここで食事してなさい。
鞄を持ってくるから」
「はい」
「じゃぁ、私も行く。
そろって帰ると怪しまれそうだが…それもおもしろいか…。
ではな」

颯爽と去って行く煉夜を見送り、美輝のお茶を淹れなおしてやる。

「じゃぁ、すぐに戻ってくるから、ここに居なね」
「うん…」

まだ授業が始まっていなくて良かった。
美輝のクラスに行くと、クラスメート達が鞄を持って突進してきた。

「あのっ気分が悪いなら帰るかもしれないと思ってっ……っ用意しておきましたっ」
「…ありがとう。
気が利くんだね。
これからも美輝と仲良くしてあげてね」
「「「っはいっ」」」

全員に返され、驚いた。
そのまま自分の教室に行き、荷物を取って職員室へ。
後で何か言われるより、報告していったほうがいいだろう。
美輝も送っていくので心配いらないと伝える。
これで本来の帰宅時間に家に帰せば問題はない。
屋上へと向かいながら、電話をかける。

『なんじゃい?
珍しいのぉ』
「すみません。
少々事情がありまして、三十分後に研究室の方にお邪魔してもよろしいですか?」
『構わんよ。
勝手に入ってきたまえ。
わしはずっと居るからなぁ』
「ありがとうございます。
それでは、一時半頃に伺います」
『おうっ待っとるぞぃ』


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