月陰伝(一)
さすがに制服のままでは外聞が悪い。
美輝を連れ、不可視の術を掛けて歩く。
向かうのは知り合いのブティックだ。

「…おねぇちゃん…何処に行くの?」
「雪仁さんの大学に行くから、服を着替える」

店に着き、正面ではなく裏口へ回る。
そこで不可視の術を解いた。
呼び鈴を鳴らすと、中から勢い良く走ってくる足音が聞こえ、ドアが開いた。

「はいはぁ〜ぁい。
っ結ちゃんじぁ〜ん。
ッッ制服っレアッッ」

顔を出したのは、店長のリリアーヌだった。

「リリィ、入って良い?」
「もっちろんッ。
そっちの子は?」
「妹」
「まぁぁっ。
っ?でも結ちゃん、ファリア様の所に入ったんでしょ?
勘当されて、元家族とは疎遠になったって…?」
「良いでしょ?
たまには。
悪いんだけど、この子に合う服を一式用意してもらえる?
支払いはこれで」
「うんうんっお安いご用〜ぉ。
さぁさっ元妹さん?
お着替えしましょ〜ぉ」
「っえッえっ???」

美輝がご機嫌なリリィに、奥に連行されたのを確認して、私も服に着替える。

あっ…言わなくて良かったかな?

美輝に大事な事を言うのを忘れていたが、仕方がない。

「結〜ぃ。
それって新作のやつ?」

作業場で仕事をしていたアシスタントの蘭が、着替えた服を見て感嘆の声を上げた。

「試作の試作だよ」
「でもやっぱり良いっ」

このブティックは、オーダーメイドも請け負う人気店だ。
もちろん店員は全員、月陰の関係者。
蘭は、月光で刹那と同じ部隊に所属している魔術師だ。

「そう言えばっ、今朝聞いたよ?」

ニヤニヤと笑いながら、言う様子に嫌な予感を覚えつつ、首をひねる。

「何を…?」

うん。
嫌な予感がする。

その時、リリィが美輝を連れて戻ってきた。

「どうよっ。
大学に行くって言うから、ちょっと大人っぽくしてみたわぁ〜。
っっ結ちゃんっ…ステキッ。
そのデザインっ……色合いもバッチリっ。
店に出すのはっ?!」
「これは試作。
デザインは上がったよ。
赤いスケッチブック。
見といて」
「っわかったわっっ」

さぁ行くかと美輝に声を掛けようとした時、蘭が思い出したように口を開いた。

「そうそう。
リリィさんっ知ってた?
結とサジェスの若様、婚約したんですよっ」
「っうっそ〜ぉぉ。
やったわねっ結ちゃんッッ。
お姉さん応援するっ。
お式はいつ?!
ドレスっ……っドレスを用意するわっ。
そうと決まったら、ファリア様と契約して来なくっちゃっ」
「???婚約…?」
「っ待ってッ。
…まだまだ先だからっ。
決まったら、お願いするから待っててっ」
「っうんっ。
絶対よッ」
「っ…わかった…」

危なかった…そんな話をお父様にしたら…こじれるっ……白紙に戻しかねないっ。
美輝が何か聞きたそうにしていたが、あえて無視だ。


< 42 / 149 >

この作品をシェア

pagetop