月陰伝(一)
不可視の術を掛けるべきだった。
そう後悔したのは、店から出て間もなくだった。
道行く人の視線が鬱陶しい。
そして、更に鬱陶しいのが…。

「ねぇねぇ彼女達っ。
俺らと遊ばねぇ?」
「うっひょ〜ぉ、マジやばいっ。
マジでタイプっ」

クソガキ共っ!!。

ぞろぞろとついてくるガキ共を撒いて、撒いて、ようやく大学のある駅に辿り着いたのだが…。

「俺らと遊ぼうよ」
「どこ行くの?」
「「ひゃぁ〜」」

どっから湧いてくるんだ!?
ウザい。
殴りたい。
もう限界っ。
絶滅させてやるッ。

いつの間に繋いだのか、美輝の手を引きながら、駅前へ出ると、後ろから思わぬ人の声が掛かった。

「お前達、それくらいにしておきなさい。
彼女に手を出すと後悔することになる」

振り返ると、結城さんが呆れ顔で立っていた。

「お巡りさんには関係ないでしょ?
少しお話してるだけじゃないですかぁ」
「彼女達だけでは危ないんで、送っていってあげる所なんですよ〜」
「「ははっ」」

腹立たしい。
マジで排除するか。

「君達の為に言っているんだ。
悪いことは言わない。
彼女には関わらない方がいい」

物凄く目が真剣だ。
だが、残念な事に、おバカな若者達には気付く事ができない。

「あれですか?
もしかしてお巡りさんが彼女の彼氏とか?」
「うわぁ〜マジで〜?」
「ウケるわ〜ぁ」
「勤務中でしょう?
良いんですか〜?」
「「有り得ない」」
「?おねぇちゃん?」

結城と被った言葉は、きれいにハモったせいでよく響いた。

「お?
違うなら良いじゃん。
俺らと行こうよ」
「そうそう。
ちょっとお茶するだけなんで、お巡りさんも、もう帰って良いですよ〜」
「「ばいば〜い」」

そう言って、肩を馴れ馴れしく触ろうとしたやつの手を、思いっきりはね飛ばし、美輝に触れようとした一人の足をかかとで踏みつけた。

「「ッいッッ…っ」」

数歩たたらを踏んで後退した彼らを睨みつけ、結城に言った。

「結城さん、妹を預かっててください。
このガキ共をちょっと教育してきます」
「っおっおいッ待てッ。
駄目に決まってるだろっ」
「何がです?
いい加減、頭にきてるんです。
大丈夫、上手くやりますよ」

そう言ってニヤリと笑い、一歩踏み出しかけた時、また新たな声が響いた。

「おいおい。
何やってんだ?」
「っ久間さんっ。
ご無沙汰しておりますっ」
「おお、結城か。
珍しい組み合わせだな。
おいっボウズ共っ、絶望ってやつを知りたいのか?
ガキが、再起不能になるぞ。
こんな所で人生終わらせたくないだろ。
お前らの為だ。
この女には近づくな。
良くて病院送り。
悪くて精神病院送りになる」

酷い言いがかりだ。


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