月陰伝(一)
とてつもなく失礼な内容だが、否定できない為、目を逸らして無言で通す事にした。

「何言ってんだ、おっさんっ?
頭オカシイんじゃねぇの?」
「そんな脅しがきくかよっ」
「オヤジが出ばってくんなっ」
「帰れ〜っ」

ここですぐにキレて手を出すような奴は、こちらにはいない。
むしろ彼らに同情の眼差しを向ける男二人の態度に多少ムッとしないでもないが…。

「…おい、結っ手加減できるか?」
「さぁ?
結城さん。
この前の高校生って、どれくらいで動けるようになってた?」
「……巡回から帰って少しだったから……二時間くらい…?」
「なら、二時間くらい動けなくなる程度なら手加減できる」
「それは手加減って言えるのか?
まぁ、良い。
教訓にはなるな」
「良いんですかっ!?
この間の学生達、あれからあまり外に出なくなったらしいんですが……」
「ふぅん。
意外と根性なかったんだ」
「っやり過ぎだろっ。
大体、いくら他人の鞄を盗んだからって、代わりにそいつらの生徒手帳と財布を掏るやつがあるかっ」
「結城さんその怒り方、リナちゃんに似てきたね」
「っそんな話をしてるんじゃないだろっ」
「あ〜、はいはい。
手加減しま〜す」
「おうっ、やったれ」
「久間さんっ」

珍しく応援してくれる与一に、嬉しくなる。
お陰で、あんまり手加減できなかったかもしれない。
冷たいコンクリートと仲良くなった若者達は、全員気持ち良さそうに気絶してしまった。
取り合えず交番の前まで引きずり、入り口に並べておく。

「晒し者っぽくて良いね」
「ここは日が当たって昼寝にはちょうど良いだろ」
「ッ何が昼寝ですかっ。
気絶してんじゃないっスかッ。
頼んますよっ与一さぁ〜んっ」
「俺は、あぁ言う奴らが嫌いなんだよっ。
まだこのバカ女とつるんでる方がマシだぜ」
「ホント、いつもは会ったらすぐに帰るか、追い返そうとするくせに、そっちから寄ってくるなんて珍しい」
「そんなナリしてっからっ遠目じゃ分かんなかったんだよっ。
っ誰が好き好んで近寄るかッ」
「ふぅ〜ん」

与一にはよく避けられるが、多分一番近い人種な気がする。

「それで?
男を釣って遊びたかったわけじゃないだろ。
相方がいつもと違うもんな?」

完全に茅の外になっていた美輝は今、力也さんにお茶を出してもらっていた。

「元妹だよ」
「元っ!?っ…そういやぁお前…御大の所に引きとられたとか聞いたな…。
じゃぁ学生じゃねぇか。
上手く化けたな」
「リリィに頼んだ」
「っ…あいつか…まぁ良い。
そんでぇ?
その元妹を連れて、何処に行くつもりだったんだ?」
「向坂に。
あっ与一、車あるでしょ?
送ってって」
「っんで俺がっ?」
「またあぁゆうのを釣れと?
私一人の時ならあんなの寄せ付けないんだけどね…」

そう言って美輝に目を向けると、皆も揃って顔を向けた。

「っ???なっ…何ですか?」
「可愛いな。
お前に似なくて」
「イイッスね。
普通っぽくて」
「姉妹なのに…」
「おいッ」

何処までも失礼な奴らだ!


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