月陰伝(一)
私は、ポツリポツリと話し出した。

「本来だったら、雪お兄さんとも兄弟になるはずだったんですけど…。
お母さんは、おねぇちゃんの事、昔から避けてて…小さい頃から、ほとんどおねぇちゃんは家にいなかったんです…」

物心つく頃には既にそれが当たり前だった。
家で会っても殆ど話した事もない。
そんな関係だった。

「なぜ結ちゃんの事を避けてるんだい?」
「……怖いって言ってました…。
お母さんは、おねぇちゃんが怖いって…だから、縁を切ったんだって…」
「怖い?」
「あのっ変な事を言うようですけど、父が…死んだ父が言ってたんです…。
『おねぇちゃんは魔法使いだから、お母さんが怖がるかもしれない』って」
「っ…???」

こんな事を言うのは変だと思う。
けれど、多分事実だ。

「結ちゃんは話さんか…。
まぁ、道理じゃな」
「っおねぇちゃんの力の事、知ってるんですか!?
ッ教えてくださいっ」

知りたい。
私だけ何も知らないみたい。
昔から、知りたいと思っても、聞く事ができなかった。
お母さんには聞けない。
きっと聞いたら怒られる。
だからと言って姉に聞く事もできない。
昔から姉は、私と母を避けるのが上手い。
すごく自然に、関わらないようにしていたから…。

「知ってどうするんじゃ?
そもそもお嬢ちゃんは、”魔法”を信じられるんかの?」
「っ……今の家に行く前、おねぇちゃんと家で最後に会った日、お母さんがおねぇちゃんを怒らせちゃったんです。
その時、部屋の中なのに風が台風みたいに吹いて、コンロが火を上げて、水道の蛇口が吹き飛んで止まらなくなったり、地震みたいに揺れたりしたんですっ。
小っちゃい頃にもそう言う変な事が起きる事があって……おねぇちゃんがやってるんだって思ったんですっ。
だから信じますっ」
「…それって超能力…?」
「ふむ、まぁそう言われる事もあるがの。
正式には…結ちゃんは精霊使いと呼ばれる」
「「っ精霊?!」」

精霊ってアレ?
可愛い小さな羽根の生えた小人さん?

「精霊って、妖精さんとは違うんですか?」
「う〜ん、難しいのぉ。
どちらも自然によって生まれるものじゃなからの。
ただ、結ちゃんの精霊は、小人さんじゃないぞぃ。
大きな鳥だったり、虎や狼の姿をしたのもおる」

想像できない。
どんなものだろう…?

「教授、超能力ではないと仰いましたが、そんなものが実際にあるんですか?
美輝ちゃんの言葉を信じられない訳ではありませんが…」
「信じられんじゃろうのぉ。
ファンタジーの世界じゃ。
空想が現実に現れたら、たいていは気のせいで済まされる。
信じられん奴は、まず信じん。
じゃが、信じたなら……世界が変わるぞぃ」

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