月陰伝(一)
確かに本でも映画でも、小さい頃から、SFやファンタジーは好きだ。
異世界ものとか、転生ものなんか大好きだ。
けれどそれは、読み物とか映像の中の世界であって、現実になんて考えた事もない。

「僕には…想像できません…」

できるわけがない。
”もしも”なんて考えられない。

「どれっ、見せてやるわい」

そう言って教授は右手を前に出し、言葉を呟いた。

「〔ファルス〕」
「っえっ何これっ」
「ッっ……」

教授が上に向けた掌に浮かぶ様に、火でもライトでもない光の玉が現れた。

「本なんかにあるじゃろ?
光の玉じゃ。
『ライティング』とかよく言われるのぉ。
ほれ、こうして……浮かせる事も可能じゃ。
術者が解除せん限り、永続的にこのままじゃ。
便利じゃろ?」

便利とかじゃないっ。
これは夢か?!
教授が魔法使い?!
いかにもの容姿ではあるけど……。

「スゴいっ。
おじぃさんっ魔法使いなんですねっ」
「ほほっ可愛らしい呼び方をしてくれるのぉ。
こちらの業界では、魔術師と呼ばれるわぃ」
「『魔術師』……カッコいいっ」
「ほっほっほっ、お嬢ちゃんは大物じゃなぁ。
たいていは、現実との擦り合わせに時間が掛かるでの。
あぁなるわい」
「?雪お兄さん…大丈夫ですか?」
「っあ…あぁ…」

もの凄くドキドキしている。
でも、不快ではない。
何だか……。

「触っても大丈夫ですか?」

自分が一瞬何を言ったかわからなかった。
けれどワクワクしている。
こんな気持ちは子どもの時以来かもしれない。

「ええぞ?」

そう言われてたまらず、素早く手を伸ばした。

「…っほんのり温かいですね…でも火じゃない……不思議な感覚です…っ」

ほわっとする。
何だか癖になりそうだ。

「っ私もっ……わぁ……っこれいっぱい作れるんですか?」
「できるぞ?
夜の宴の時に、祭りの提灯みたいにやる事もあるでの」
「っステキっ。
今っ今はダメですか?!」
「今はのぉ……今度結ちゃんにやってもらうとええ。
結ちゃんは器用での。
ワシはこの色しかできんが、あの子は色んな色の明かりを出せるんじゃ。
綺麗じゃぞぉ」
「っおねぇちゃんも『魔術師』なの?!」
「そうじゃ。
『精霊使い』で『魔術師』としても最高ランクのトリプルSクラスな上に、『封魔師』のランクも上から四つ目のトリプルAクラスじゃ。
あの歳で中々じゃて」

そんな会話の最中、ある伝説を思い出した。

「…この国のある山奥に、人ではない者達の集落があり、人知れず世界の秩序を守っている…」
「ほぉ…よぉ知っとるの」
「っ本当なんですか?!」

衝撃だった。


< 47 / 149 >

この作品をシェア

pagetop