月陰伝(一)
”神族”

彼らは、大地と共に生きると言われている。
その存在は精霊に近く、清浄な気によって存在する事ができる。
魔術とは異なる神術を扱う事ができ、その力は計り知れない。
この次元では、古い史実にも”神族”の存在は確認されていないが、一説には、彼らは次元を渡り、この地を去ったと言われている。

《神族は、清浄な気の元でしか生きる事ができないと言われている。
故に、穢れた土地では、闇族や妖精族を傍に置く事で、自身の周りの気を清浄に保っている。
しかし…姫よ、薄いと言われたか》
「うん。
それに確かに言われてみれば、あの気は神族かもしれない。
昔会った事があるから…でも…何だか…」

確証に欠ける要素があった。
正しくないような…。

《姫には、異なるようにも感じられたと…。
ならば、彼の者は、堕ちた神だろう》
「なるほど、神族であってないものか。
堕ちた神は、自らも気を穢すと聞く。
節操なしに闇族を集めるのも道理か…。
しかし、なぜそんな者がこの次元に?
只でさえ、神族が見捨てた土地だ。
なにゆえ、わざわざ降り立ったのだ?」
《堕ちた神は、滅びを呼ぶ。
全てを白紙にする事を、至上の歓びとする。
故に、人の世を乱す》
「何か仕掛けてくると言うのか?」
「……」
「どうした?
結、何か心当たりがあるのか?」
「ううん…確証がない…。
今は、様子を見るしかないと思う」
「だが、早くそやつを何処かにやらねば、お前が休めぬではないか。
マリュヒャ様や佐紀が心配するぞ」

わかっているつもりだ。
けれど、今は私しか対処できないのも確かだ。

「おねぇちゃんとその子しか精霊使いがいないって本当?」

それまで話しについていけなかった美輝が、口を開いた。

「本当だよ」
「精霊使いってどうやって生まれるの?」
「どう?
血…かな…?
代々父さんの血筋が精霊使いだった。
他の国にも昔はいたみたいだけど、今はもう血が薄れてしまって、精霊使いと呼ばれるだけの力を持った者はいないんだ」
「お父さんの実家にも?」
「…真紅一族は…三年前に滅んだんだよ…」
「滅んだ…?」
「何だよ、それっ。
そんな事知らないぞっ?」
「私もそれは初耳だな。
精霊使いは、お前と律しかいないと聞いているだけだ。
滅んだとはどう言う事だ?!
月陰がありながら、なぜそうなった?」

全員の視線が集中する。
徹底的に情報統制をしたから、月陰でも、この事実を知っているのは、上の三人だけだ。

《姫よ…》

心配そうに黒狼が顔を上げるのを、手で制す。

「詳しくは言えない。
ただ、結果だけ言えば…当主が一族全てに制裁を与えた。
それによって、一族は滅んだ。
だから、一族の直系は、私と律。
それと…美輝だけ」
「っ私?
あっそっか…」


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