月陰伝(一)
煉と執務室に入ると、暗い気を背負いながら、細々と仕事をする憂李さんが目に入った。
そして、そんな憂李さんへ一歩執務室に入って発した煉の第一声に思わず手が出てしまった。
「憂李の憂は憂鬱の憂…っタッ…イタイっ…」
何て事を言うんだっこの馬鹿っ。
「憂李さん、遅くなりました。
すぐに仕事に掛からせますので、今日一日、頑張りましょう。
煉も五倍速で頑張ると言っています」
「ん?
おっおい、結っ???」
「大丈夫ですよっ。
こんな量、煉なら三日で終ります。
勿論、適度な休憩も入れて、私が全面的にバックアップしますからご心配なく」
「おい…結…?」
「っ真紅くんが来てくれて助かりますっ。
これで、部下達を休ませてやれますね…。
くっ…本当に、当代様も煉夜様も…山のように仕事があっても目を離した隙に脱走される有り様で…っ。
夜陰の代表を補佐して約百年…師匠より引き継いだこの役職も、返上すべきかと悩む次第で…っ」
「ゆっ…憂李さん…?
辞めたりしないでくださいねっ。
大丈夫です。
煉はやれば出来る子なんですっ。
ほらっあるじゃないですかっ、構い過ぎてしまうと、変な甘えぐせがついてしまうって。
子育ては手探りなんです。
諦めたら終りですよっ。
ちゃんと協力しますからっ」
「っありがとうございます…っ。
そう言っていただけると…まだ頑張れる気がしますっ」
「おい…お前達…?
それでは何だか私がお前達の子どもの様に…」
「さぁ、煉。
出来る所を見せてちょうだい」
背を押して、椅子に座らせ、憂李に聞こえないように耳元で囁く。
「いい加減にしないと、本当に憂李さんに見捨てられるよ。
あの人は、見切りを付けたら振り返らない主義の人種だ。
気を付けて」
「っっっ…!!
っヨォッシ頑張るぞ〜ぉっ」
「…煉夜様がやる気に…???」
よしよし。
では、始めよう。
さっさと通常業務を終わらせよう。
その後は、流石に速かった。
本当に五倍速。
下の者が受け止めきれない。
ただでさえ、連日の仕事でボロボロ。
そんな所に怒濤の様に仕事が雪崩れ込み、窒息状態。
これは不味いと、支部から人員を募り、徹夜で三日。
私と煉夜は、午前中がテストなので、学校に行くが、他の者は違う。
私達が学校に行っている間に、交代で休憩させたが、あまり休めなかったようだ。
今は嵐が過ぎ去った後さながらの散々たる光景が広がっていた。
「っ…おっ…おわっ…た…?」
「もう…寝ま…す…っ」
「いっ…いえ…に…帰っ……」
床に瀕死体が転がっていた。
「こら。
ここで寝るなっ」
だらしない。
これだから内勤専門はっ。
「結、もうこのまま寝かせてやれ。
俺でも、正直キツい…」
応援に来た佐紀にも、うっすらと目の下にクマができていた。
「…佐紀はここで寝ないように」
「あぁ、帰るよ…」
「お疲れ様でした瀬能くん。
君は少し休んでから帰ってください。
帰ったら、そのまま自分の仕事に手をつけそうですからね。
真紅くん、君も彼と休んでください」
「憂李様ッ。
煉夜様が潰れましたっ」
「今行きます」
「では、二人ともお疲れ様でした」
全員に労いの言葉を掛けながら、普段と変わらず颯爽と執務室へ帰っていく後ろ姿は、まだまだ余力を残しているようだった。
「憂李さんって何者…?」
「……」
そして、そんな憂李さんへ一歩執務室に入って発した煉の第一声に思わず手が出てしまった。
「憂李の憂は憂鬱の憂…っタッ…イタイっ…」
何て事を言うんだっこの馬鹿っ。
「憂李さん、遅くなりました。
すぐに仕事に掛からせますので、今日一日、頑張りましょう。
煉も五倍速で頑張ると言っています」
「ん?
おっおい、結っ???」
「大丈夫ですよっ。
こんな量、煉なら三日で終ります。
勿論、適度な休憩も入れて、私が全面的にバックアップしますからご心配なく」
「おい…結…?」
「っ真紅くんが来てくれて助かりますっ。
これで、部下達を休ませてやれますね…。
くっ…本当に、当代様も煉夜様も…山のように仕事があっても目を離した隙に脱走される有り様で…っ。
夜陰の代表を補佐して約百年…師匠より引き継いだこの役職も、返上すべきかと悩む次第で…っ」
「ゆっ…憂李さん…?
辞めたりしないでくださいねっ。
大丈夫です。
煉はやれば出来る子なんですっ。
ほらっあるじゃないですかっ、構い過ぎてしまうと、変な甘えぐせがついてしまうって。
子育ては手探りなんです。
諦めたら終りですよっ。
ちゃんと協力しますからっ」
「っありがとうございます…っ。
そう言っていただけると…まだ頑張れる気がしますっ」
「おい…お前達…?
それでは何だか私がお前達の子どもの様に…」
「さぁ、煉。
出来る所を見せてちょうだい」
背を押して、椅子に座らせ、憂李に聞こえないように耳元で囁く。
「いい加減にしないと、本当に憂李さんに見捨てられるよ。
あの人は、見切りを付けたら振り返らない主義の人種だ。
気を付けて」
「っっっ…!!
っヨォッシ頑張るぞ〜ぉっ」
「…煉夜様がやる気に…???」
よしよし。
では、始めよう。
さっさと通常業務を終わらせよう。
その後は、流石に速かった。
本当に五倍速。
下の者が受け止めきれない。
ただでさえ、連日の仕事でボロボロ。
そんな所に怒濤の様に仕事が雪崩れ込み、窒息状態。
これは不味いと、支部から人員を募り、徹夜で三日。
私と煉夜は、午前中がテストなので、学校に行くが、他の者は違う。
私達が学校に行っている間に、交代で休憩させたが、あまり休めなかったようだ。
今は嵐が過ぎ去った後さながらの散々たる光景が広がっていた。
「っ…おっ…おわっ…た…?」
「もう…寝ま…す…っ」
「いっ…いえ…に…帰っ……」
床に瀕死体が転がっていた。
「こら。
ここで寝るなっ」
だらしない。
これだから内勤専門はっ。
「結、もうこのまま寝かせてやれ。
俺でも、正直キツい…」
応援に来た佐紀にも、うっすらと目の下にクマができていた。
「…佐紀はここで寝ないように」
「あぁ、帰るよ…」
「お疲れ様でした瀬能くん。
君は少し休んでから帰ってください。
帰ったら、そのまま自分の仕事に手をつけそうですからね。
真紅くん、君も彼と休んでください」
「憂李様ッ。
煉夜様が潰れましたっ」
「今行きます」
「では、二人ともお疲れ様でした」
全員に労いの言葉を掛けながら、普段と変わらず颯爽と執務室へ帰っていく後ろ姿は、まだまだ余力を残しているようだった。
「憂李さんって何者…?」
「……」