月陰伝(一)
マリュヒャは元々、父の親友だった。
父は、”真紅”一族の直系。
代々精霊使いの力を継いできた一族の出だ。
だが昨今、その血は血族間での婚姻を繰り返すあまり、正しく機能しなくなっていた。
精霊使いと言える力を持った者が、生まれなくなっていたのだ。
そんな中、力を持って生まれたのが、父だった。
しかし、父の力は、当代である唯一の精霊使いであった祖母に比べれば、それほど強く確かなものではなかった。
その為、力を存続させようとする一族の一部の者達が、現代の科学によって能力を解明しようと、父を実験台として利用するようになった。
それを知った祖母は、月陰に保護を頼んだ。
月陰に引き取られた父は、すっかり人間嫌いになっていたと言う。
そんな時に出会ったのが、マリュヒャだった。
水の属性を持っていた父と龍族であるマリュヒャ。
相性が良かったのだろう。
少しずつ心を開くようになった父は、マリュヒャと共に月陰の仕事を請け負うようになった。
そして仕事先で……母に出会った…。
「…母の事は……自分でもよく分からないんです…。
物心つく頃にはもう、距離があったし、親と言う実感が伴わなくて…。
だから、勘当と言われても、今まで顔もろくに合わせてないのに今更なにを…と思うくらいで…」
父と母は恋愛結婚だったと言う。
偶然、仕事で居合わせた船が事故で沈没。
その時に、海に放り出された母を助けたのが父だったとか。
「父は、最期まで母に能力を打ち明けなかった。
母も、それを知ろうとはしなかった。
私から見れば、それだけの縁だったと言う事です。
愛していても、容易に変わっていく心を止める程ではなかった。
一度離れた心を再び近付けるには、お互いが多くの努力を強いられます。
私も父も、そこまでする程、母を想ってはいなかったのでしょうね…」
全て、私が原因だった。
私が能力を継いでいると気づいた父は、母と距離を置くようになった。
次第に心を閉ざすようになった父。
そんな父の変化の理由が、当然母には分からなかった。
父が私だけを守ろうとするのに対し、母は妹を…そんな距離が当然のように家族を壊した。
「…瑞樹は、お前の母を愛していた。
だからこそ一族の呪縛と、家族への想いがせめぎあい、命を落とした…。
お前がどう思っているのかは、分からないが、結婚すると言った時の瑞樹は、心からの笑みを浮かべ、輝いていた。
あんな瑞樹の顔を、私はそれまで知らなかった。
本当に愛する者を見つけたからこそできる表情だったのだ。
お前の母は許せんが……瑞樹が愛した者だと言う事はお前も理解してやってくれ」
「はい…」
分かっている。
母は母だ。
最初から想われていなかったわけではないと思っている。
だからこそ、勘当と言われて揺れたのだ。
私も、決して想っていないわけではなかったと言う事だろう…。
父は、”真紅”一族の直系。
代々精霊使いの力を継いできた一族の出だ。
だが昨今、その血は血族間での婚姻を繰り返すあまり、正しく機能しなくなっていた。
精霊使いと言える力を持った者が、生まれなくなっていたのだ。
そんな中、力を持って生まれたのが、父だった。
しかし、父の力は、当代である唯一の精霊使いであった祖母に比べれば、それほど強く確かなものではなかった。
その為、力を存続させようとする一族の一部の者達が、現代の科学によって能力を解明しようと、父を実験台として利用するようになった。
それを知った祖母は、月陰に保護を頼んだ。
月陰に引き取られた父は、すっかり人間嫌いになっていたと言う。
そんな時に出会ったのが、マリュヒャだった。
水の属性を持っていた父と龍族であるマリュヒャ。
相性が良かったのだろう。
少しずつ心を開くようになった父は、マリュヒャと共に月陰の仕事を請け負うようになった。
そして仕事先で……母に出会った…。
「…母の事は……自分でもよく分からないんです…。
物心つく頃にはもう、距離があったし、親と言う実感が伴わなくて…。
だから、勘当と言われても、今まで顔もろくに合わせてないのに今更なにを…と思うくらいで…」
父と母は恋愛結婚だったと言う。
偶然、仕事で居合わせた船が事故で沈没。
その時に、海に放り出された母を助けたのが父だったとか。
「父は、最期まで母に能力を打ち明けなかった。
母も、それを知ろうとはしなかった。
私から見れば、それだけの縁だったと言う事です。
愛していても、容易に変わっていく心を止める程ではなかった。
一度離れた心を再び近付けるには、お互いが多くの努力を強いられます。
私も父も、そこまでする程、母を想ってはいなかったのでしょうね…」
全て、私が原因だった。
私が能力を継いでいると気づいた父は、母と距離を置くようになった。
次第に心を閉ざすようになった父。
そんな父の変化の理由が、当然母には分からなかった。
父が私だけを守ろうとするのに対し、母は妹を…そんな距離が当然のように家族を壊した。
「…瑞樹は、お前の母を愛していた。
だからこそ一族の呪縛と、家族への想いがせめぎあい、命を落とした…。
お前がどう思っているのかは、分からないが、結婚すると言った時の瑞樹は、心からの笑みを浮かべ、輝いていた。
あんな瑞樹の顔を、私はそれまで知らなかった。
本当に愛する者を見つけたからこそできる表情だったのだ。
お前の母は許せんが……瑞樹が愛した者だと言う事はお前も理解してやってくれ」
「はい…」
分かっている。
母は母だ。
最初から想われていなかったわけではないと思っている。
だからこそ、勘当と言われて揺れたのだ。
私も、決して想っていないわけではなかったと言う事だろう…。