月陰伝(一)
「浮かない顔だなぁ」

テストの結果発表日。
いつもの学校の屋上。
一人小屋で、佐紀の事を考えていると、いつの間にか煉夜がおもしろそうにニヤケながら入り口に立っていた。

「うん?
ちょっとね。
ねぇ、煉。
種族の違いってそんなに気になるもん?」

佐紀が不安に思う程、気にするべきものだろうか。

「いや?
何か問題が?」
「ううん。
もう一つ聞くけど、私って人嫌いかな?」
「?気に入らん奴よりも興味のない人は多そうだが、嫌ってるようには見えないな?」

うん。
良く分かっていらっしゃる。

「なら良いんだ」

幼い頃から常に、人でない者達の存在を知っていたし、言葉にも不自由した事はない。
だから、あえて気にした事はなかった。
確かに、違う所は違う所と割りきる場合はある。
主に成長速度や完全な見た目だが…。
それが、ああは言ったが、佐紀の一言で不安になったのだ。
そんなに違いがあるものだと認識した事はなかったから。

「人か人でないかとかそんな事、些末な事だ。
私は私。
結は結。
ただそれだけで良い」
「うん…。
さっすが煉だね」
「まぁ、私にも覚えがあるからな」
「えっ?」
「何だ?
その意外だって顔は…私だって悩むんだぞ…?」

いつだって我が道を行く煉が…?
周りなんて気にしない煉が…?

「…結…今、失礼な事考えただろう…」
「えっ…いやぁ…」

仕方ないじゃないか。
煉は絶対に弱味を見せない。
人並みに悩む姿を見たことがない。

「ふんっ。
我が家の家訓その八、『手の内と弱味は身内にも見せるな』」
「っ何それ?!」
「だから、家訓だ。
ジジイの教えだ。
言った事なかったか?」
「ないよっ?!」

何だ、そのふざけた家訓はっ!

「いいだろう、この機会に我が家の家訓を全てご披露しよう!」
「えっ、いや…いらなっ」
「よろしいっ。
では、心して聞くがいいっ」
「やっ…だからいらなっ…」
「では、家訓その一、『物を借りたら、相手が忘れるまで待て』」

んん?

「家訓その二、『やられたら、許しを請われても徹底的にやり返せ』」

をい!?

「家訓その三、『必要があってもなくても、使えるなら子どもでも使え』」

ダメだろっ!?

「家訓その四、『惚れた相手は、死んでも落とせ』」

それって家訓!?

「家訓その五、『上に立ったら、迷いなくあれ』」

おっ、急にまともになったっ…?

「家訓その六、『金がなければ、裏金を盗め』」

なぜっ!?

「家訓その七、『状況が悪くなったら、後ろを見ずに逃亡して善し』」

……。

「家訓その八…は言ったな。
その九、『貰える物は、人でも貰え』

……。

「家訓その十、『いくつになっても心は子どものままでいろ』」
「…もういいよ…もう分かった…」
「んん?
まだ半分だぞ?」
「っ半分!?」
「そうだ。
そして、まだ増える予定だ」
「なんで???」
「全てジジイの思いつくままだ。
よって、ジジイがくたばるまで続く」
「…楽しそうだね…」

でも、確かにこの家訓によって育ったのが煉だよね…。
環境の違いかぁ…もう一度ちゃんと考えるべきなのかも…。


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