月陰伝(一)
マリュヒャの屋敷は、山を三つ程越えなくてはならない。
とは言っても、月陰の土地がそれほど広大なわけがない。
月陰本部の土地は、山一つ。
しかし、実際は山を三つ越えたとしても、関係者の住む土地は遥か向こうまで続く。
その上、美しい湖や森など、日本では有り得ないような風景が広がっている。
この場所は、特殊な能力者達によって、別の次元に繋がっているのだ。
「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様」
「ああ…今日は結も泊めるからな」
「承知致しました」
「今晩は、サリーさん。
お邪魔します」
サリファ・ティアーク。
マリュヒャの屋敷の家令だ。
「おや、お寂しい事をおっしゃいますな。
旦那様にとって、お嬢様は実の娘のようなもの。
お嬢様がいつお帰りになっても良いように、お部屋は常に整えてございますよ」
「ふふっありがとう…」
父が亡くなり、マリュヒャがこちらの業界での後見人となってくれた。
父との約束だったらしい。
「只今、深夜二時ですが、お食事はどうされますか?」
「私はいい。
もう寝る」
「承知しました。
お嬢様は、どうされますか?」
「私も、今日はもう休みます。
明日は朝七時には出ますので、お構い無く」
「明日は学校か?」
「いえ、学校はあるのですが休みます。
自宅の荷物を引き取りに行かなくてはならないので……再婚する方の家に引っ越すらしく、明日中に部屋を全て引き払う事になっているんです」
「……そうか…早く帰ってきなさい」
「はい」
マリュヒャは、何だか釈然としない顔でそう言い、自室へ向かうべく階段を上っていく。
その背中に笑みを向ける。
「お休みなさいませ、お父様」
「ああ……結。
明日、荷物はここに運びなさい。
サリー、結の寮の部屋も引き払う手配を。
荷物は全てこちらに運べ」
?何を…?
「承知致しました旦那様」
呆然とマリュヒャの背中を見送る中、隣でサリファが深々と頭を下げる。
「さぁ、お嬢様。
事情は存じませんが、これで晴れて旦那様の娘におなりですね。
これは腕がなります」
いや…待って…?!
どう言う事?!
「律様もお喜びになりますなぁ」
え〜っと、この場合どうすれば良いんだ?
どりあえず…。
階段を猛スピードで駆け上がり、事態を問いただすべくマリュヒャの部屋に向かう。
「…?ねぇさま?」
階段を上りきったと同時に、可愛らしい声が廊下に響いた。
声の方を振り向けば、眠そうに目を擦りながら、小さな男の子が立っていた。
「っ…律…起きちゃった…の…?」
「…やっぱり…ねぇさまだ…っねぇさまぁっ」
泣きそうな顔で、両手を広げながらトタトタと走ってきた。
これは受け止めないわけにはいかない。
「わぁんっねぇさまぁぁ」
何で泣いてるの???
久しぶりに会った従弟は、しっかりと抱きついて、そのまま大泣きした。
とは言っても、月陰の土地がそれほど広大なわけがない。
月陰本部の土地は、山一つ。
しかし、実際は山を三つ越えたとしても、関係者の住む土地は遥か向こうまで続く。
その上、美しい湖や森など、日本では有り得ないような風景が広がっている。
この場所は、特殊な能力者達によって、別の次元に繋がっているのだ。
「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様」
「ああ…今日は結も泊めるからな」
「承知致しました」
「今晩は、サリーさん。
お邪魔します」
サリファ・ティアーク。
マリュヒャの屋敷の家令だ。
「おや、お寂しい事をおっしゃいますな。
旦那様にとって、お嬢様は実の娘のようなもの。
お嬢様がいつお帰りになっても良いように、お部屋は常に整えてございますよ」
「ふふっありがとう…」
父が亡くなり、マリュヒャがこちらの業界での後見人となってくれた。
父との約束だったらしい。
「只今、深夜二時ですが、お食事はどうされますか?」
「私はいい。
もう寝る」
「承知しました。
お嬢様は、どうされますか?」
「私も、今日はもう休みます。
明日は朝七時には出ますので、お構い無く」
「明日は学校か?」
「いえ、学校はあるのですが休みます。
自宅の荷物を引き取りに行かなくてはならないので……再婚する方の家に引っ越すらしく、明日中に部屋を全て引き払う事になっているんです」
「……そうか…早く帰ってきなさい」
「はい」
マリュヒャは、何だか釈然としない顔でそう言い、自室へ向かうべく階段を上っていく。
その背中に笑みを向ける。
「お休みなさいませ、お父様」
「ああ……結。
明日、荷物はここに運びなさい。
サリー、結の寮の部屋も引き払う手配を。
荷物は全てこちらに運べ」
?何を…?
「承知致しました旦那様」
呆然とマリュヒャの背中を見送る中、隣でサリファが深々と頭を下げる。
「さぁ、お嬢様。
事情は存じませんが、これで晴れて旦那様の娘におなりですね。
これは腕がなります」
いや…待って…?!
どう言う事?!
「律様もお喜びになりますなぁ」
え〜っと、この場合どうすれば良いんだ?
どりあえず…。
階段を猛スピードで駆け上がり、事態を問いただすべくマリュヒャの部屋に向かう。
「…?ねぇさま?」
階段を上りきったと同時に、可愛らしい声が廊下に響いた。
声の方を振り向けば、眠そうに目を擦りながら、小さな男の子が立っていた。
「っ…律…起きちゃった…の…?」
「…やっぱり…ねぇさまだ…っねぇさまぁっ」
泣きそうな顔で、両手を広げながらトタトタと走ってきた。
これは受け止めないわけにはいかない。
「わぁんっねぇさまぁぁ」
何で泣いてるの???
久しぶりに会った従弟は、しっかりと抱きついて、そのまま大泣きした。