月陰伝(一)
「神族っスかぁ〜」
姫だっこから解放され、ほっと息をついていると、フィリアムが早速ターナに話を切り出した。
「そうだ。
この地球上の全てで検索をかけろ」
「相変わらず、無茶言うっスねぇ〜」
無気力気味な口調とは裏腹に、すぐに複数のキーボードを叩き始める。
”ターナ・リドヴィ”
『情報部の変人』
『電子の悪魔』
『知識の狂者』
色々と二つ名のある彼は、魔族だ。
本人曰く、『悪魔はないっスよねぇ〜』と、変人である事は認めている。
フィリアムの古くからの友人で、国から追い出された彼を招いたのもフィリアムだ。
彼には病的な程の知識欲があった。
知りたい事がありすぎて、魔界では使い魔を使って様々な情報や知識を集めていた。
それが問題で追放処分になったと言う。
だが懲りない彼は、こちらに来て科学と出会い、それに惚れ込み、のめり込んでいった。
その副産物として、コンピュータや様々な回線などを、自分の目や手足として使えるようになった。
それはもう、プロのハッカーもたじたじとする程、極めてしまったのだ。
「っ出たっスよ」
その言葉に飛び付き、表示されたモニターを見る。
「…ここだけ?
これは……一人って事?」
「生体データとしてはこの一つっスね。
ご要望通り、全世界で検索をかけたっスよ?
海の中から地中に至るまでっ」
「ほぅ、日本だな」
「日本っスねぇ〜」
示された場所は、現在、もぬけの殻だったあの女性のマンションのある隣町だ。
「お姫さまの学校とあんまり離れてないっスよね?」
「うん…。
人物の特定は無理?」
「無理じゃないっスけど、機械じゃ無理っスね。
ジャミングみたいになるんスよ。
使い魔を使えば問題ないっス」
「お願い」
「ラジャっス」
片手を上に向けると、三匹の黒い蝶が出現し、そのまま天井をすり抜けて出ていった。
程なく帰ってきた蝶は、三匹が円を描くように飛び、やがて黒い輪が出来た。
そして、その中に映像が映し出される。
「女か…」
それは”神崎祥子”だった。
通り過ぎる男達を魅了し、美しい笑みを湛えている。
「神族にしては毒々しいっスよね。
近付かない方が良いっスよ?
さっき生態データを見たっスけど、烙印者っス」
「烙印者?
それって堕ちた神の事?」
「そうっスよ。
よく知ってますねぇ。
烙印者は、精神に欠陥が出た神族って言ったら分かりやすいかもしれないっスね。
あとは〜ぁ重度の潔癖症?
神族は基本的に清浄な地でしか生きられないんスよ。
だから、浄化の力を持ってるんスが、烙印者には、その力がないんス。
やっぱ心のキレイな人しか浄化できないんスよねぇ〜。
恨みとか妬みなんて言う負の感情に支配されると、魂にキズがつくって話っスよ。
そうなると浄化の力が消えるんスよね」
元々、神族は精神に生命の源を置いていると言う。
神が、信仰によって力を持つ存在であるのと似ている。
その為、精神的なダメージには敏感なのだ。
簡単に言えば、非常に繊細な生き物だと言う事だろう。
なまじ強い力を持っている為、負の感情に堕ちた神族は、その力の制御が出来なくなる。
手加減なしで振るわれる力は、脅威でしかないのだ。
姫だっこから解放され、ほっと息をついていると、フィリアムが早速ターナに話を切り出した。
「そうだ。
この地球上の全てで検索をかけろ」
「相変わらず、無茶言うっスねぇ〜」
無気力気味な口調とは裏腹に、すぐに複数のキーボードを叩き始める。
”ターナ・リドヴィ”
『情報部の変人』
『電子の悪魔』
『知識の狂者』
色々と二つ名のある彼は、魔族だ。
本人曰く、『悪魔はないっスよねぇ〜』と、変人である事は認めている。
フィリアムの古くからの友人で、国から追い出された彼を招いたのもフィリアムだ。
彼には病的な程の知識欲があった。
知りたい事がありすぎて、魔界では使い魔を使って様々な情報や知識を集めていた。
それが問題で追放処分になったと言う。
だが懲りない彼は、こちらに来て科学と出会い、それに惚れ込み、のめり込んでいった。
その副産物として、コンピュータや様々な回線などを、自分の目や手足として使えるようになった。
それはもう、プロのハッカーもたじたじとする程、極めてしまったのだ。
「っ出たっスよ」
その言葉に飛び付き、表示されたモニターを見る。
「…ここだけ?
これは……一人って事?」
「生体データとしてはこの一つっスね。
ご要望通り、全世界で検索をかけたっスよ?
海の中から地中に至るまでっ」
「ほぅ、日本だな」
「日本っスねぇ〜」
示された場所は、現在、もぬけの殻だったあの女性のマンションのある隣町だ。
「お姫さまの学校とあんまり離れてないっスよね?」
「うん…。
人物の特定は無理?」
「無理じゃないっスけど、機械じゃ無理っスね。
ジャミングみたいになるんスよ。
使い魔を使えば問題ないっス」
「お願い」
「ラジャっス」
片手を上に向けると、三匹の黒い蝶が出現し、そのまま天井をすり抜けて出ていった。
程なく帰ってきた蝶は、三匹が円を描くように飛び、やがて黒い輪が出来た。
そして、その中に映像が映し出される。
「女か…」
それは”神崎祥子”だった。
通り過ぎる男達を魅了し、美しい笑みを湛えている。
「神族にしては毒々しいっスよね。
近付かない方が良いっスよ?
さっき生態データを見たっスけど、烙印者っス」
「烙印者?
それって堕ちた神の事?」
「そうっスよ。
よく知ってますねぇ。
烙印者は、精神に欠陥が出た神族って言ったら分かりやすいかもしれないっスね。
あとは〜ぁ重度の潔癖症?
神族は基本的に清浄な地でしか生きられないんスよ。
だから、浄化の力を持ってるんスが、烙印者には、その力がないんス。
やっぱ心のキレイな人しか浄化できないんスよねぇ〜。
恨みとか妬みなんて言う負の感情に支配されると、魂にキズがつくって話っスよ。
そうなると浄化の力が消えるんスよね」
元々、神族は精神に生命の源を置いていると言う。
神が、信仰によって力を持つ存在であるのと似ている。
その為、精神的なダメージには敏感なのだ。
簡単に言えば、非常に繊細な生き物だと言う事だろう。
なまじ強い力を持っている為、負の感情に堕ちた神族は、その力の制御が出来なくなる。
手加減なしで振るわれる力は、脅威でしかないのだ。