月陰伝(一)
モニターに映し出された黒い竜巻は、地上を嘗めるように進む。
そして、次の瞬間、目を見開いた。
巻き込まれるように竜巻に触れた大きな大樹が、黒い粒子に変換され、竜巻の一部となって消えたのだ。

「っ……そんな…っ」

同じように家が消え、畑に植えられた植物が消え、全てを消し去っていく。

「っとんでもないっスねぇ」

そんな他人事みたいに…っ。

そして場面が切り替わり、複数の人が、その竜巻の向かう先に並んでいた。
どうやら、魔術師達のようだ見知った顔もある。
結界によってこれ以上の進行を止める気だろう。

「………マリュー…」
「っえっ?」

隣で呟かれた言葉に驚いてそちらに顔を向ければ、フィリアムが眉根を寄せてモニターを凝視していた。
まさかと言う思いで、ゆっくりとモニターにもう一度視線を戻すと、魔術師が並ぶ最後尾にマリュヒャの姿があった。

「…っマリュー様…っ」

そうだ。
おそらくこれが出張の理由だ。
そして、あれほどまで悩んでいた原因だ。

まだ距離があるが、徐々に迫ってくる黒い竜巻に不安が募る。
しかし、そこで妙な事に気が付いた。

「ターナ…これはどう言う事…?
あの牛と木は、何で消えなかったの?」

黒い竜巻が巻き込んだ動物と、林立する木が、なぜか消えなかった。
勿論、吹き飛ばされてはいったが、消滅する事はなかった。

「……どうやら、『人』と『人が創った物』だけを消しているみたいっスね。
だから、人ではない家畜や、人の手を介さずに自然に生えた木や草は消えないみたいっス。
凄いっスねぇ、条件付きの術式なんて可能なんスねぇ……」

若干ワクワクしているように聞こえるのは気のせいたろうか。
これだから変人は……。

「それなら、人ではないマリューは、巻き込まれても問題がないかもしれんと言う事か?」
「確証はないっスよ?
種族まで選別できるかは、『神のみぞ知る』ってやつっスね」
「っそんなっ…」

マリュー様……!

そんな痛切な想いを察してか、フィリアムがそっと私を引き寄せて肩を抱いた。

「大丈夫だ。
マリューはあれでも、昔は龍神と呼ばれて崇められていた男だぞ?
人ではありえない。
ターナのデータを信じろ。
アイツならば、必ず無事に解決する。
不可能を可能にできるからこそ、この曲者だらけの月陰で、総統の座にあるのだからな」

その言葉にゆっくりと頷く。

マリュー様なら…。

魔術師達の結界が展開される。
一部の魔術師達は、その前に出て、竜巻の横へと別れて走る。
結界に当たった竜巻は、青白い火花を散らしながら、結界を破る勢いで、まるで体当たりをするように何度も何度も跳ね返る。
そして、回り込んだ部隊が、中央に霞んで見える魔具に攻撃を仕掛けた。


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