月陰伝(一)
結華の提案した作戦はこうだ。
先ずは、結界によって、竜巻の通る道を作る。
両側を竜巻の直径に合わせて囲み、真っ直ぐの道を作り出す。
その真ん中に線を引き、前が見えなくても進めるようにする。
「第一班から第五班までで頼む。
第六班と…ウィナは、私と中へ入る」
全員が素早く作戦へと移っていく様を見ながら、先程、久しぶりに聞いた娘の言葉を思い出していた。
「……早く帰ってきてください…か……」
昔は、そんな事を素直に言ってくれなかった。
これが義理の親子の距離かと諦めていたのだが……。
「なぁにニヤケてんのよぉ?
緊張感ないわねぇ」
そう言う彼女も、決して緊張感があるとは言えなかった。
「ウィナ……」
”ウィナ・カナ・リーチ”
彼女は、魔術師達の師だ。
殆どの魔術は、彼女が作り出した。
”魔術師長””マジックマスター”とも呼ばれる。
多くの魔術師が、彼女によって見出だされ、一流の魔術師となった。
結華もその一人だ。
「ふふっ、まったく素敵な作戦ね。
確かに、中に入って、あれを直接見ないと、正確な術式が読み取れないわ。
危険な賭けでも、やらなきゃ始まらないわよねぇ。
常々思うけど、結華はやっぱり、貴方にはもったいない娘だわ」
「やらんぞ」
「あら、必要なのは、父親よりは母親だと思うのよね。
今度直接誘惑してみるわ」
っ絶対に会わせるかっ。
「っふんっ」
こればかりは譲れない。
念願叶って、ようやく傍に置けるようになった娘だ。
取られてたまるものかっ。
フィルと言い、ウィナと言い、娘を欲しがるヤツがごまんといるのは困りものだ。
まったく、今回は失敗だった。
存在ごと消滅させる事のできる魔具が見つかったと報告があり、危険度の高さから、すぐに現地に向かって現状を確認した。
結界で道を妨げ、何とか進行を遅らせてみたが、人が触れただけで消えるという恐ろしさに、誰もが二の足を踏んでいた。
ヴァチカンの者は、珍しい魔具が手に入ると、果敢に立ち向かっていったが、あっと言う間に消滅してしまった。
それを知って、絶対に結華を巻き込むものかと思った。
身内贔屓だと言われても仕方がない。
だが、もしも今、結華が消えてしまったら、おそらく自分は耐えられない。
何千年と生きてきて、これ程恐いと思ったのは初めてだ。
結華が、短命な人だからだろう。
妻に対しては、それほど真剣に考えた事はなかった。
彼女は、おそらく自分の一部だったからだ。
亡くなった時は、半身がなくなったように感じた。
だが、結華は違う。
ただただ、大切にしたいのだ。
愛したいのだ。
傍にいて守りたいと思う。
幸せになって欲しいと思うのだ。
それなのに、今現在、結華の傍にいるのはフィリアムだ。
あの悪友は、常に結華を狙っている。
私から父親の座を奪おうとする。
「さっさと終わらせよう」
「それで、早く娘に会いたいわけね。
貴方って結華が絡むと、分かりやすいわ」
悪いかっ。
先ずは、結界によって、竜巻の通る道を作る。
両側を竜巻の直径に合わせて囲み、真っ直ぐの道を作り出す。
その真ん中に線を引き、前が見えなくても進めるようにする。
「第一班から第五班までで頼む。
第六班と…ウィナは、私と中へ入る」
全員が素早く作戦へと移っていく様を見ながら、先程、久しぶりに聞いた娘の言葉を思い出していた。
「……早く帰ってきてください…か……」
昔は、そんな事を素直に言ってくれなかった。
これが義理の親子の距離かと諦めていたのだが……。
「なぁにニヤケてんのよぉ?
緊張感ないわねぇ」
そう言う彼女も、決して緊張感があるとは言えなかった。
「ウィナ……」
”ウィナ・カナ・リーチ”
彼女は、魔術師達の師だ。
殆どの魔術は、彼女が作り出した。
”魔術師長””マジックマスター”とも呼ばれる。
多くの魔術師が、彼女によって見出だされ、一流の魔術師となった。
結華もその一人だ。
「ふふっ、まったく素敵な作戦ね。
確かに、中に入って、あれを直接見ないと、正確な術式が読み取れないわ。
危険な賭けでも、やらなきゃ始まらないわよねぇ。
常々思うけど、結華はやっぱり、貴方にはもったいない娘だわ」
「やらんぞ」
「あら、必要なのは、父親よりは母親だと思うのよね。
今度直接誘惑してみるわ」
っ絶対に会わせるかっ。
「っふんっ」
こればかりは譲れない。
念願叶って、ようやく傍に置けるようになった娘だ。
取られてたまるものかっ。
フィルと言い、ウィナと言い、娘を欲しがるヤツがごまんといるのは困りものだ。
まったく、今回は失敗だった。
存在ごと消滅させる事のできる魔具が見つかったと報告があり、危険度の高さから、すぐに現地に向かって現状を確認した。
結界で道を妨げ、何とか進行を遅らせてみたが、人が触れただけで消えるという恐ろしさに、誰もが二の足を踏んでいた。
ヴァチカンの者は、珍しい魔具が手に入ると、果敢に立ち向かっていったが、あっと言う間に消滅してしまった。
それを知って、絶対に結華を巻き込むものかと思った。
身内贔屓だと言われても仕方がない。
だが、もしも今、結華が消えてしまったら、おそらく自分は耐えられない。
何千年と生きてきて、これ程恐いと思ったのは初めてだ。
結華が、短命な人だからだろう。
妻に対しては、それほど真剣に考えた事はなかった。
彼女は、おそらく自分の一部だったからだ。
亡くなった時は、半身がなくなったように感じた。
だが、結華は違う。
ただただ、大切にしたいのだ。
愛したいのだ。
傍にいて守りたいと思う。
幸せになって欲しいと思うのだ。
それなのに、今現在、結華の傍にいるのはフィリアムだ。
あの悪友は、常に結華を狙っている。
私から父親の座を奪おうとする。
「さっさと終わらせよう」
「それで、早く娘に会いたいわけね。
貴方って結華が絡むと、分かりやすいわ」
悪いかっ。