月陰伝(一)
最愛の娘に、『早く帰って来てください』と言われたからには、早く帰りたかったのだが、被害が大きかった事と、原因となったものが消滅してしまった為に、手を回さなくてはならない場所や、情報統制など、危急を要する事の対応に駆け回る事になった。
結果、夕食の時間ギリギリの帰宅となってしまった。
そんなようやく辿り着いた屋敷での第一声は、不本意なものだった。
「なぜお前がここにいる?」
てっきり可愛い娘と息子が、揃って出迎えてくれると思っていたのに、笑顔で出迎えたのは、家令でも、メイドでもなく、なぜか悪友のフィリアムだった。
「大変だったな。
まぁ入れ」
ここは、私の屋敷ではなかったか?
そんな疑問が頭に浮かべば、前から小さな足音が聞こえてきた。
「とぉさまぁ、おかえりなさぁい」
「律」
まだまだ甘えん坊の息子は、小さな手を上げて抱っこをせがむ。
抱き抱えれば、嬉しそうに首に抱きついてきた。
「きょうは、おきゃくさまといっしょにごはんなんです。
ねぇさまが、おりょうりするんですよっ」
そう言えば、そんな事を聞いたかもしれない。
『早く帰って来て…』の方に気を取られていて、気に留めなかった。
「姫が作った食事か。
楽しみだなぁ」
だから、なぜお前がいる?
「あらぁ、お帰りなさいマリュー。
お邪魔しているわぁ」
そして、なぜお前もいる?
「お疲れ様です、マリュー様。
結華が夕食を一緒にと言うので、お言葉に甘えさせていただきました」
「お前は良い」
「はい?」
「いや……よく来たな」
そうだ。
サキュリアは良い。
だが、百歩……いや、千歩譲ってもフィリアムとサミューは、呼ばなくてもいい。
その上、今日の夕食は結華の手作りっ。
そんな貴重なものをっ…。
この想いを知ってか知らずか、娘が笑顔で部屋に入ってきた。
真っ直ぐにこちらに向かって微笑む様は、幸せで、誰にも邪魔されたくない。
「お帰りなさいませ、お父様」
「ただいま、結華。
お前の作戦が上手くいった」
そう言った時、前に立つ結華は、本当に嬉しそうに微笑んでくれた。
そっと片手を結華の頬に当てれば、それにそっと手を添えて目を閉じる。
目の前には、可愛いい娘。
腕の中には、小さな息子。
なんと言う幸福な場所だろう。
「ご無事で良かった」
「お前のお陰だ」
「私の?」
「声が聞こえた」
「???」
確かに聞こえた。
最後の瞬間、警告が耳に届いた。
「何の術も使っていません。
確かに、モニター越しに叫んだ気はしますが……」
あれだけはっきり聞こえたのだが…。
そう言えば、終わった後、ウィナが言っていた。
『最後のアレは、よく気づいたわね。
完全に予想してなかったわよ』
『結華の声がなければ、間に合ったかどうか分からん』
『結華?
声なんて聞こえた?』
誰もが首を横に振った。
「私にだけ聞こえたようだ。
大事な時に遠く離れていてもお前の声が届くとは、嬉しい事だな」
そう言うと、不思議そうに首を傾げながらも、嬉しそうに目を細めた。
「マリューって、あんな顔できるのね。
わたくしてっきり、あの無表情で顔の筋肉が固まってるんだと思ってたわぁ」
「くっ羨ましいな」
「娘って良いわねぇ」
「娘と言うか……」
「「結華が(結ちゃんが)欲しいっ」」
「……父上…母上…」
絶対にやらんぞっ!!
結果、夕食の時間ギリギリの帰宅となってしまった。
そんなようやく辿り着いた屋敷での第一声は、不本意なものだった。
「なぜお前がここにいる?」
てっきり可愛い娘と息子が、揃って出迎えてくれると思っていたのに、笑顔で出迎えたのは、家令でも、メイドでもなく、なぜか悪友のフィリアムだった。
「大変だったな。
まぁ入れ」
ここは、私の屋敷ではなかったか?
そんな疑問が頭に浮かべば、前から小さな足音が聞こえてきた。
「とぉさまぁ、おかえりなさぁい」
「律」
まだまだ甘えん坊の息子は、小さな手を上げて抱っこをせがむ。
抱き抱えれば、嬉しそうに首に抱きついてきた。
「きょうは、おきゃくさまといっしょにごはんなんです。
ねぇさまが、おりょうりするんですよっ」
そう言えば、そんな事を聞いたかもしれない。
『早く帰って来て…』の方に気を取られていて、気に留めなかった。
「姫が作った食事か。
楽しみだなぁ」
だから、なぜお前がいる?
「あらぁ、お帰りなさいマリュー。
お邪魔しているわぁ」
そして、なぜお前もいる?
「お疲れ様です、マリュー様。
結華が夕食を一緒にと言うので、お言葉に甘えさせていただきました」
「お前は良い」
「はい?」
「いや……よく来たな」
そうだ。
サキュリアは良い。
だが、百歩……いや、千歩譲ってもフィリアムとサミューは、呼ばなくてもいい。
その上、今日の夕食は結華の手作りっ。
そんな貴重なものをっ…。
この想いを知ってか知らずか、娘が笑顔で部屋に入ってきた。
真っ直ぐにこちらに向かって微笑む様は、幸せで、誰にも邪魔されたくない。
「お帰りなさいませ、お父様」
「ただいま、結華。
お前の作戦が上手くいった」
そう言った時、前に立つ結華は、本当に嬉しそうに微笑んでくれた。
そっと片手を結華の頬に当てれば、それにそっと手を添えて目を閉じる。
目の前には、可愛いい娘。
腕の中には、小さな息子。
なんと言う幸福な場所だろう。
「ご無事で良かった」
「お前のお陰だ」
「私の?」
「声が聞こえた」
「???」
確かに聞こえた。
最後の瞬間、警告が耳に届いた。
「何の術も使っていません。
確かに、モニター越しに叫んだ気はしますが……」
あれだけはっきり聞こえたのだが…。
そう言えば、終わった後、ウィナが言っていた。
『最後のアレは、よく気づいたわね。
完全に予想してなかったわよ』
『結華の声がなければ、間に合ったかどうか分からん』
『結華?
声なんて聞こえた?』
誰もが首を横に振った。
「私にだけ聞こえたようだ。
大事な時に遠く離れていてもお前の声が届くとは、嬉しい事だな」
そう言うと、不思議そうに首を傾げながらも、嬉しそうに目を細めた。
「マリューって、あんな顔できるのね。
わたくしてっきり、あの無表情で顔の筋肉が固まってるんだと思ってたわぁ」
「くっ羨ましいな」
「娘って良いわねぇ」
「娘と言うか……」
「「結華が(結ちゃんが)欲しいっ」」
「……父上…母上…」
絶対にやらんぞっ!!