月陰伝(一)
予想通りの時間に帰宅したマリュヒャは、何だか微妙な顔をしていた。
おそらくフィリアム達が原因だろう。
だが、あえてそれに気づかない振りをする事にした。
「お帰りなさいませ、お父様」
「ただいま、結華。
お前の作戦が上手くいった」
優しく頬を包み込んだ手は、大きくて温かい。
失わなくてよかったと安堵する。
「ご無事で良かった」
「お前のお陰だ」
「私の?」
「声が聞こえた」
「???」
「何の術も使っていません。
確かに、モニター越しに叫んだ気はしますが……」
マイクもオフになっていたし、声が届くはずはない。
けれど、その時、ふっと記憶が蘇った。
父が亡くなった時だ。
『結華、大丈夫だ。
私が居る。
お前の声は、どこにいても届く』
そう言って、いつの間にか傍にいた。
いつだって、マリュヒャには声が届く。
求めた時に、来てくれる。
「私にだけ聞こえたようだ。
大事な時に遠く離れていてもお前の声が届くとは、嬉しい事だな」
向けられた優しい微笑みに心が温かくなる。
「マリューって、あんな顔できるのね。
わたくしてっきり、あの無表情で顔の筋肉が固まってるんだと思ってたわぁ」
「くっ羨ましいな」
「娘って良いわねぇ」
「娘と言うか……」
「「結華が(結ちゃんが)欲しいっ」」
「……父上…母上…」
何を言ってるんだ?
そんな、始終和やかとはいかないが、よい雰囲気で食事を済ませ、フィリアム達を見送ると、夜も大分更けていた。
「きょうは、いっしょにねられますか?」
「ああ、結もな」
そう言われて、まだ若干抵抗はあったが、しなくてはならない話があったと思い出し、いい機会だと思った。
律は、先にベッドに入ると、はしゃぎ疲れたのかすぐに眠ってしまった。
「なんだ、律はもう眠ったのか?」
「ええ」
マリュヒャは、愛おしそうにそっと律の頭を撫でてベッドに入る。
「明日もまだあちらへ行かれますよね?」
「ああ、まだ数日は掛かる。
すまんな」
「?…」
「せっかく家族になったと言うのに、中々一緒に居られない。
律にも悪いことをした。
これでずっと三人一緒に居られると喜ばせておいて、結局寂しい想いをさせている…」
「……良いんです。
甘えん坊のこの子には、必要な事ですよ。
一緒に居られる時には、ちゃんと傍に居て甘やかしてやれば良い。
それでこの子はちゃんと、家族を知ることができます」
本当の両親を知らない律。
沢山、我慢させている。
けれど一人ではない。
そうやって、色々理解しながら、ゆっくり育っていってくれればいい。
家族を知ってくれたらいい。
「お前もな…」
「え?…」
その目は、父親の目だと思った。
見守り、慈しみ、愛する。
程ほどの距離をとって、でもずっと近く、傍にある。
「…お父様…あの…母に会って来ようと思います。
報告書にまとめましたが、母の周辺に、今回の騒動の原因である、”神族”が絡んでいます。
偶然ですが、以前、”神族”の女性に接触しました。
それも踏まえて、少し話をしてきます」
ここまで”神族”の問題が大きくなるとは思っていなかった。
だが、こうなった以上、一刻も早く手を切らせなくてはならない。
「……お前はまったく…」
「マリュー様?…」
「…好きにしなさい…」
「…はい…」
そう言って目を閉じたマリュヒャを確認し、自身も目を閉じた。
呆れられてしまったかな…。
そんな不安が過ったが、ゆっくりと眠りに落ちていった。
おそらくフィリアム達が原因だろう。
だが、あえてそれに気づかない振りをする事にした。
「お帰りなさいませ、お父様」
「ただいま、結華。
お前の作戦が上手くいった」
優しく頬を包み込んだ手は、大きくて温かい。
失わなくてよかったと安堵する。
「ご無事で良かった」
「お前のお陰だ」
「私の?」
「声が聞こえた」
「???」
「何の術も使っていません。
確かに、モニター越しに叫んだ気はしますが……」
マイクもオフになっていたし、声が届くはずはない。
けれど、その時、ふっと記憶が蘇った。
父が亡くなった時だ。
『結華、大丈夫だ。
私が居る。
お前の声は、どこにいても届く』
そう言って、いつの間にか傍にいた。
いつだって、マリュヒャには声が届く。
求めた時に、来てくれる。
「私にだけ聞こえたようだ。
大事な時に遠く離れていてもお前の声が届くとは、嬉しい事だな」
向けられた優しい微笑みに心が温かくなる。
「マリューって、あんな顔できるのね。
わたくしてっきり、あの無表情で顔の筋肉が固まってるんだと思ってたわぁ」
「くっ羨ましいな」
「娘って良いわねぇ」
「娘と言うか……」
「「結華が(結ちゃんが)欲しいっ」」
「……父上…母上…」
何を言ってるんだ?
そんな、始終和やかとはいかないが、よい雰囲気で食事を済ませ、フィリアム達を見送ると、夜も大分更けていた。
「きょうは、いっしょにねられますか?」
「ああ、結もな」
そう言われて、まだ若干抵抗はあったが、しなくてはならない話があったと思い出し、いい機会だと思った。
律は、先にベッドに入ると、はしゃぎ疲れたのかすぐに眠ってしまった。
「なんだ、律はもう眠ったのか?」
「ええ」
マリュヒャは、愛おしそうにそっと律の頭を撫でてベッドに入る。
「明日もまだあちらへ行かれますよね?」
「ああ、まだ数日は掛かる。
すまんな」
「?…」
「せっかく家族になったと言うのに、中々一緒に居られない。
律にも悪いことをした。
これでずっと三人一緒に居られると喜ばせておいて、結局寂しい想いをさせている…」
「……良いんです。
甘えん坊のこの子には、必要な事ですよ。
一緒に居られる時には、ちゃんと傍に居て甘やかしてやれば良い。
それでこの子はちゃんと、家族を知ることができます」
本当の両親を知らない律。
沢山、我慢させている。
けれど一人ではない。
そうやって、色々理解しながら、ゆっくり育っていってくれればいい。
家族を知ってくれたらいい。
「お前もな…」
「え?…」
その目は、父親の目だと思った。
見守り、慈しみ、愛する。
程ほどの距離をとって、でもずっと近く、傍にある。
「…お父様…あの…母に会って来ようと思います。
報告書にまとめましたが、母の周辺に、今回の騒動の原因である、”神族”が絡んでいます。
偶然ですが、以前、”神族”の女性に接触しました。
それも踏まえて、少し話をしてきます」
ここまで”神族”の問題が大きくなるとは思っていなかった。
だが、こうなった以上、一刻も早く手を切らせなくてはならない。
「……お前はまったく…」
「マリュー様?…」
「…好きにしなさい…」
「…はい…」
そう言って目を閉じたマリュヒャを確認し、自身も目を閉じた。
呆れられてしまったかな…。
そんな不安が過ったが、ゆっくりと眠りに落ちていった。