天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
1、わたしの彼氏におなりなさい


 ―――よっしゃ、ようやく聞き出したぞ!


 井之口和也(いのぐちかずや)は浮き立っていた。


「おっ、おいマジかよ……マジで行くの? やめとこうぜ、なぁ、なあー、なーってーっ」


 心細げな声を投げかける級友を尻目に、和也は悪友らと連れ立ってばたばた足音を立てて走る。

 目指すのは、秋の窓辺で友人たちと談笑に夢中の彼女―――

 ダークブラウンのロングヘアーをたおやかに流して、毛先は甘くカールしている。

 漆を刷いたような大きな眸、桜色の唇が形よく結ばれ、見惚れるほどに完ぺきな造作。

 淑(しと)やかに指先で口元を押さえる仕草がなんとも絵になる―――

 橘小百合(たちばなさゆり)は、もちろん何も知らぬ様子で無邪気に笑い合っている。


(あいかわらず天使そのもの……)

< 1 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop