天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
エピローグ
周囲には内緒の、二人のひそやかな交際が始まった。
その事実だけでも心が浮き立って落ち着かないのに、さらにそのうえ秘密の共有などという妖しい響きが加わって、もう、寝ている間さえ心臓の休まるときがない。
なかなか時間も合わなくて、デートらしいデートはできていないのが現状なのだけれど。
でもいいのだ。
どうせ明後日からは待ちに待った冬休み。
橘も部活がある俺に合わせて都合をつけると言ってくれている。
門を抜け、昇降口までのスペースを横切る際、前方に、見慣れた背中を発見する。笹原だ。
和也は己の胸の内を覗いてみた。―――大丈夫。いたって穏やかな鼓動を刻んでいる。
笹原にたいする引け目は吹っ切った。
……完全にとは言いがたいが、俺だってもう譲れないのだ。
いつかは打ち明けねばならない日が来るだろうけれど、そのときまで橘を見習って、一回りも二回りも度量を大きく、思慮深く、もっと洞察力を身につけて、人に言われて揺さぶられるのではなく、自らが最低限考察できる知恵を養いたいとおもう。
笹原がそのようであるように。
橘は気にしないと言うし、滝のような考えはくだらないと真っ向から断ずる。
けれど、彼女をものにする以上は、それ相応の心構えと、見合った評価が必須だと和也は考える。
そうやって自分を追い詰めていた方が、和也はもっと自分のことが好きになれるのだ。
自分が好きだと、もっとうんと橘のことが好きになれるのだ。
「小百合おはよー」
「おはよう。今日も寒いね」
挨拶に応じる声がして、肩越しに振り返ると、鼻先を赤らめた彼女が笑っている。
念じなくても彼女も俺に気づいて、目配せで思いを確かめあう。