天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠

 でも、夢じゃない。

 取りに行った日誌を俺は確かに先輩に手渡したのだ。

 それまで一度として彼女と付き合いたいなどと恐れ多い夢を抱いたことのない俺が、そんな突拍子もない夢想に取り憑かれたとは考えにくい。


 夢じゃない……。


 和也は寝返りを繰り返しながら呻く。

 本来ならば、マドンナに告白されたのだ、もっと舞い上がっていっそ有頂天にさえなっていいはずの場面で、しかし和也は少しも弾んではいられなかった。


(笹原にどう言えば…………!)


 すべては、よかれと思ってしたことだった。

 ……それが、なんということだろう。

 自身の軽はずみな提案で、最悪の事態を招いてしまった。

 友人は今から傷つけることになるだろうことは必至、幼馴染みの天使には俺が笹原の気持ちをうきうきと打ち明けた時点ですでに取り返しのつかない傷を負わせている。

 罰ゲームの告白の後、橘が見せた言い知れぬあの表情……。

 だからこそのあの切ない表情だったのかと思い至る。

 ……どう償っても償いきれない、最低の悪ふざけだった。
 いや、もちろんそんなつもりはなかったし、なかなか前に進まない笹原の背中を押したい一心でやったことだった―――……。

 けれど、現実はかくも残酷だった。

 ……考え足らずだった。
 予想だにしていなかったなんて言い訳にならない。対処できない、思い及ばない、そんな無責任が後からどれほど人の心を傷つけるか。

 そう、まさか俺だったなんて思うかよ―――なんて言おうものなら、学校中の人間からフルボッコにされて近くの川に投げ込まれそうだ。

 きっと良い方向に進むとばかり信じ込み、目先のことしか視野を向けずに突っ走った俺の落ち度だ。

 誰一人報われないばかりかこんな哀しい結果を生みだしてしまうなんて。


(で、でも今はまず、とにもかくにも断るのが先決だよな……っ!)

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