天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
死人のように俯せていた上体をばっと起こしてふるふると首を振る。
日頃ほとんど使わないつたない頭をフルに働かせて、一所懸命かんがえる。
……そうだ、橘を好きなのは笹原なのだ。
橘を傷つけてしまったことは今さらどうしようもない。
水には流せないけれど、橘の俺への思慕を蹂躙したのは俺自身で、それで彼女はきっと俺に失望しただろうけれど、だからといってそれで俺に痛手はない。
思慕を通じて彼女を傷つけてしまったのは事実でも、それでずたずたになった心は新たな恋で修繕することが可能だ。
……身勝手な理屈だとはわかっているけれど、俺が今できることといえば、きっぱりばっさり彼女をフって、別の男に目を向けさせるための終止符を与えることではないか。
そうすれば、橘がいつか、笹原を好きになってくれる日も来るかも知れない。
せいぜい最低なクズ男と罵り、吹聴して気が済むのなら好きなだけすればいい。
俺はちっとも痛くなんかない。
痛みなんか感じてちゃいけないのだ……!
―――小学校からずっと……
不覚にも橘の声が耳に蘇って、和也は枕を被った。
(だーっ!! だから駄目だってーッ!)
ちょっとでも惜しいと思ってる自分がいることに、己の心根を疑う。
俺、正真正銘のクズです、はい……。
しばし己を見つめ直してから、和也はあらためて友情を取ることを心に決めた。