天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
いきなり手首を掴まれたかと思うと、およそ淑女が持つ力とは思われぬ力で引きずられ、強制的に向きを変えられる。
気づけば、先ほど彼女が追い詰められていた壁に今度は和也自身がぴたりと背中を寄せていた。
わけがわからず目を剥く和也に、橘は不敵な笑みをその形のよい唇に結ぶと、おもむろに口角を上げてみせ―――
「ひぃっ!!」
これまた先ほど三年生がしていたような―――イケメンのみに許された必殺技―――壁に手を着く動作を、それも、男のそれよりはるかに迫力ある手並みでやってのけた。
縮み上がる和也の眼前に、橘は常の慈愛に満ちた天使とは正反対の、
ひどく扇情的で、傲然で、艶然たる微笑みを寄せた。