天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠

 それでも諦めきれずに、黒目を渡り廊下の方へと向けた、次の瞬間。


「―――はい、時間切れー」


 無情の声。


「……っっ!!?」


 抗う余地なく……ほんとうに、キス、されてしまった。ふぁ、ファーストキスだったのに……。

 ―――てか睫毛ながっ!

 と、どうでもいいことにしっかり感想を抱く。しかもキス、意外と優しい…………とか俺バカ!?

 ―――いや! いやいやいやいや!


「ばっ、ばかなのはおまえだー! はっ、離れろこらッ、腕をどかせ―――ひえっ!」


 羞恥に耐えかね身を捩るも、今度は首に手をかけられて和也は立ち竦む。


「わたしの束縛から逃れようなんて、無茶な考えはおよしなさい」

「………」


 ……高飛車な科白がおそろしく様になっている。
 橘だからこそ、あほみたいにリアルに効力を発揮する悪魔の脅し……。

 魂を抜き取られたかのごとく、和也はたちどころに抵抗する気力が萎え、そのうち迷い子みたいに半泣きになる。


(た、たしかに俺、昨日、橘にすげぇひどいことしたけど、でも、ここまでされる謂われってある……?
他人に罵られるのはまだわかるけど、本人からこんな仕打ちって。
しかもなんかめっちゃ人格変わってるし、勝手だし、それにおよしなさいって……俺、言うこときかないとどうなっちゃうのー!)


 俺より10センチほど身長の高い彼女は悠々と俺の頭に触れ、頬を撫で、毛先を弄ぶ。

 その間も、我が子にするそれのようにまぶたにキスを落としたり、頬ずりをしてきたり、
 耳たぶを甘噛みされたときには―――

< 18 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop