天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「へっ、変態!!」
「あらあら」
橘は怒るどころか愉しげに笑った。
「まさか男子から変態呼ばわりされるとは思わなかったけど……まあ、それも仕方ないのよ、だってわたし、井之口くんの前では一分と理性が保たないんだもの」
「ひっ、開き直るな! し、お、女が理性とか簡単に言うなぁーっ!!」
「ふふっ、わめくとまったく子供ね。かわい」
きぃーっ!! 和也は地団駄を踏む。
かわいいという言葉は彼のもっとも嫌いとする表現のひとつだった。
「バカにすんなよ!」
「じゃあ大人なの?」
橘はからかうように柳眉を上げる。
「そ、そっち寄りのつ、つもりだよ! チビだからって中身もまんまだと思うな!」
「ならキスくらいで吠えないで。冷静になって考えてよ。わたしとあなた、どちらがより悪いことをしたか、その判断くらいはつくでしょう?」
「う……」
そこを突かれると返す言葉がない。
唸るようにアゴを引いた和也に、またぞろ橘はあの愁いを帯びた眼差しを向けた。
「わたし、傷ついたの。流した涙は本物よ。
信じられないかもしれないけど」
「ほんとだよ……」
おもわず本音をこぼすと、耳聡く彼女は聞き咎め、
「―――なんか言った?」
笑顔で俺をビビらせる。
「…………い、いえ」
「だからあなたはわたしに償う必要があるの、それはわかるでしょう? 罪を犯した人間には相応の代償が課せられるの」
「それがキス……ってことか」
「そのひとつね」