天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
あのへんかな、言われてみればなんか薄暗い感じも……、俺も今そう思ったとこ―――
無邪気に色めき立つ男子たちはすでに和也のことなど眼中にない。
とりあえず負けず嫌いでプライドを譲れない生き物だから、あたかも霊感があるかのように競い合う様が滑稽だが、普段は自身もしていることゆえあまり笑えない……。
そのとき。
ぞわり、と走った悪寒に和也は立ちすくむ。
遭ったことはないのだが……たとえばそうとは知らずに猛獣の縄張りに足を踏み入れて眼光に捕捉されたとき、いやでもこんな感覚になるものかもしれない。
いきなり窮地。得体の知れないもの凄い圧力をびしばし感じる。
息を止め、恐る恐る振り返る。
(!!!!!!)
―――返るや否や、目の前に現れた橘にいきなり唇を奪われた。
とっさに後ずさりしようとして体勢を崩し、あっと思ったときには遅かった。
果たして残りの二段を踏み外し、和也は盛大に尻餅を着いた。
「だいじょうぶ?」
声を上げ、転がるように橘が駆け寄る。
とっさに和也は身を退いた。
臀部の痺れなどに頓着している場合ではなかった。
というか、気づけば本能に突き動かされるまま、疾風のごとく反応していた。
「どうしたんだよイノ、だいじょうぶか」
「まさか幽霊がそっちに?」
……男子たちは俺のケツより幽霊が大事らしい。
懸命に踊り場へと目を凝らし、いるはずのない怪異を探そうとする。
揃いも揃ってアホかっちゅーの! こんな真っ昼間にお化けがでるかっちゅーの!
内心で毒づくように突っ込んで、
(……いや、そう決めつけてしまっていいのか)
逆光に沈む橘を見上げ、和也は息を呑み込んだ。