天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠

 和也は彼の傍らに膝をつき、心配そうに顔を覗き込んでくる天使に、思わずひっと喉を鳴らした。

 地縛霊も、いたらきっとおそろしいけれど……げにおそろしきは、実のところ、生きた人間の方なのかも知れない―――そう、和也はつくづくと思う。思うようになった……。

 それも、見るからに悪質な態をしたわかりやすい不良ではなく、本性を隠した完ぺきな猫かぶり。


 天使な悪魔。


 その天使が和也に向かってたおやかに何かを指しだした。


「消しゴム、忘れなかった?」


 それは紛れもなく和也の所持品だった。


「あ、さ、サンキュ……って、あ、あああれ……おい、こら、放せっ」


 消しゴムだけ取って、すぐさま手を引っ込める予定が、それをゆうに上回る神業並の速さで手を掴まれる。

 これをされるたび、俺はそのつど心臓を鷲づかみにされる思いだった。

 まったくこの細い腕のどこにこんな馬鹿力が、と思いながらぐいぐい腕を引っこ抜く。

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