天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠

 方眼紙方眼紙……と足元を注視しながら室内を歩くも見当たらず、ふと、やたらめったに画用紙が積んである棚を見つけて、もしやと視線を上げれば、
 よりによって上段に、方眼紙の収まった細長いダンボールを発見する。

 ……あれかよ。

 とりあえず一人で何とかしてみよう、と和也は手を伸ばした。

 ……届かない。

 ならばと、つま先を上げてもみるけれど、哀しいかな、指先がかすっただけである。

 踏み台なしでダンボールごと方眼紙を下ろそうというのは、和也の身長ではただの暴挙らしい。

 そこを強いて指を引っかけ、意地になって引きずり下ろせば、周りの備品を巻き込んで大変な被害になることは目に見えてるし、方眼紙もきっとぐしゃぐしゃにシワが寄ってしまう。

 そう、冷静に分析はする―――するが、そうはいかないのが男の意地!

 安っぽいなんて言わせない!
 欲しい物がすぐそこにあって届かないというのは、チビ男子にとってたいへん深刻な問題なのだ!!


(くっそー! こんなとき俺の腕がびにょーんって伸びたら、こんな……ッ!

―――!!?)


 まずい、ふくらはぎが攣る! と、感じた刹那、彼の背面をふわりと心地よいあたたかさが掠めた。

 薄闇の中、和也の腕を道標に、目当ての方眼紙へと伸びるしなやかな二本の腕。

 つぶさに眺めたことなんかないけれど、笹原の手ってこんなに綺麗だっけ、と不覚にも見惚れてしまった。

 あろうことか、二の腕が覘いたときにはちょっと息を止めてしまうくらい緊張して、思わず自身の性癖を疑ったほどだ。

 ……な、何考えてんだよ、俺!

 やがて、笹原の手が方眼紙のダンボールを捉える。

 そこで、あれ、と和也は思った。

 今日、笹原のやつ……半袖のYシャツだったっけ?

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