天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「痛っ」
埃が、目に入った……!
笹原ぁ、と和也は恨めしげな声をこぼして向きを変えた。
変えて―――和也は凍りついた。
「ああ、ごめんごめん。井之口くんがいなかったらもっと余裕で取れたんだけど」
ちょっと引きずっちゃったせいね、だいじょうぶ?
そう耳に絡みつくような口調で問いかけたのは、笹原だと思っていた腕の本当の持ち主、橘小百合だった。
完全に油断していた中での不意の登場に和也は蒼白、口をパクパクさせて立ち竦む。
(こっ、こいつマジで魔界の生き物!?)
混乱の極致で呼吸も覚束ない彼に、目薬差してあげようかと、橘は艶めかしく顔を寄せてくる。奉仕にしては色気が過ぎるんだってバカっ!!
和也は声にならない悲鳴を上げて後ずさり、勢いよく棚に頭をぶつけた。
低く呻きながらしゃがみこむ和也に、あらあら、と橘は口元を手で押さえる。
「イノー、どしたー?」
笹原の声。首を捻った橘の口を手で塞ぎ、
「な、なんでもない! 見つかったか!?」
「まだちょっとかかりそうだー。倉庫のくせにインクのないやつが混ざってんだよくっそー。イノー、そっち見つかったら手ぇ貸してくれー」
「わ、わかったー!」
和也は呼吸を整えて、意を決し、橘と対峙する。