天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
「たとえば、こんなこと?」
アゴに触れ、彼女は、俺が男の情けない性欲と格闘している間にすっかりキスの体勢に入っている。
甘やかな匂い。
花、だろうか。
だとしたらなんの花だろう……。わからない。
伏し目がちな瞼から覘くうるんだ瞳に呼吸が奪われる。
身動きできない。
何の花? そんなもの、わからなくても、何だって構わない―――……。
思いがけず素直にキスを許した和也に、橘は不思議そうに小首を傾げるも深くは考えず、虚脱した様子の彼にもういちどキスを落とそうとして、ふいに止(とど)まった。
和也の目から一粒の涙がこぼれ、頬を伝った。
「……どうして井之口くんが泣くの?」
和也は黙して俯く。