天使な小悪魔 気付いたが最後の恋の罠
(い、言われなくたって……!)
泣いていい権利がはなから俺にはないことくらい、わかってる。
わかっていても、出てしまったものは仕方ないではないか。
「いじわるするなぁ……」
おぼえず幼子のような言い方をして、和也は穴があったら入りたいと思った。
真っ赤になって身を捩るも彼女の腕力は言うに及ばず、自身も本来の力の半分も発揮できない状態で、なけなしの抵抗はほとんどその甲斐をなさなかった。
「あら、それは無理なお願いだわ」
「……どう、して?」
しゃくり混じりに問いかける和也の濡れた頬をやさしく撫でて、橘はその手を彼の身体に添って滑らせながら、左胸へと移動させた。
それでなくても速い鼓動が狂ったように暴れ出し、唇がわななく。
「知らないの? わたし、正真正銘のサディストなのよ」
別の意味で泣けた。
「そんなの自慢になるかよぉ……」
嘆くとまたぞろ橘の双眸が凄みを増した。
「声を上げるとキスする」
究極の選択に、和也の心はおおきく揺らいだ。
……結果的にキスされることになってもそれでこの状況から解放されるなら―――。
そう考えて、己の浅はかさに嫌気がした。
……俺が声を上げたら、真っ先に駆けつけてきてくれるのは笹原だ。
あいつにだけはこんなところ、死んでも見せられない。